廃業後も借金が返せない!残った借金の対処法
コロナ禍で店舗を閉めざるを得ない飲食店など、廃業を余儀なくされる事業者が増えています。
廃業の決心はしたものの、これまでに増えた借金はどうすれば良いのでしょうか?
そもそも、廃業によって、借金を処理することができるのでしょうか?
この記事では、廃業後の借金を処理する方法について説明します。
1.廃業とは?廃業、倒産、破産の違い
「廃業」と似通った言葉に、「倒産」「破産」があります。まずは、これらの意味を明確にしておきましょう。
(1) 廃業
「廃業」とは、「事業をやめること」です。一般的な用語であり、各別な意味をもった法律用語ではありません。
廃業の対象は個人事業の場合もあれば、会社などの法人の場合もあります。
廃業の原因は、財務状況の悪化に限らず、事業主の高齢や病気、後継者不足、他業への転業など様々です。
廃業には、事業主が自主的にやめる場合というニュアンスもありますが、「廃業を余儀なくされる」「廃業させられる」などのように、外部的から強制されるケースも含めて「廃業」という言葉が使われています。
(2) 倒産
「倒産」は、経済的な破綻が原因となって事業を継続できなくなる状態のことです。こちらも法律で規定された用語ではなく、一般用語に過ぎません。
ただ、破産、民事再生、会社更生、特別清算といった法的な債務処理制度を、まとめて「倒産法」と区分するように、法律学においてはよく用いられる言葉です。
(3) 破産
「破産」は、破産法という法律に基づき、個人または法人の債務を裁判所が処理する法制度です。
裁判所が選任した破産管財人が債務者の資産を処分・換価して、債権者に配当します。
配当が終了すれば、法人破産の場合は法人が消滅して、残債務も消滅します。
個人破産では、さらに裁判所の免責決定手続を経て、残債務の返済義務が免除されます。
2.廃業後の負債の責任
では、「廃業」した後にも債務が残っている場合、その債務はどうなってしまうのでしょうか?
個人事業を廃業する場合と、法人が廃業する場合に分けて説明しましょう。
(1) 個人事業の場合
廃業は、事業をやめるという事実上の行為であり、それ自体には法的な意味はありませんから、廃業したからといって、個人事業主が営業中に個人の名義で負担した債務がなくなるわけではありません。
そこで、個人の債務を処理する手続が必要となります。それが「債務整理」です。
債務整理には、①任意整理、②個人再生、③破産(自己破産)の3つの方法があります。
①任意整理は、各債権者と個別に交渉して、各債務の分割払いを合意する整理方法です。
裁判所が関わるものではないので、合意する内容は自由ですが、将来の利息をカットしたうえで、残債務を3年間程度の分割払いとするケースが多いとされています。
②個人再生は、民事再生法という法律に基づき、各債務を減額したうえ原則3年間の分割払いとする「再生計画」を裁判所に認可してもらう整理方法です。
分割弁済が前提なので、債務者に継続して安定した収入があることが条件となりますが、任意整理と異なり、元金部分も含めた大幅な減額が認められる可能性があります。
③破産は、前述のとおり、裁判所が選任した破産管財人が資産を処分して債権者に配当した後、裁判所が残債務を免責(免除)してくれる手続です。
ただし、債務者に見るべき資産がないケースなどでは、破産管財人を選任せず、ただちに免責手続に移行します。
[参考記事] 個人事業主の廃業手続き|廃業届の書き方・提出方法を解説(2) 法人事業の場合
法人事業でも、廃業それ自体は、債務に法的な影響を与えるものではありません。
我が国における法人の大部分を占める中小企業では、法人の債務を経営者が個人保証をしているケースが通常ですから、法人自体の債務と、保証した代表者個人の債務とを分けて考える必要があります。
保証人の個人債務
保証人となった代表者の債務(保証債務)は、法人の廃業の影響を受けることはありません。
また、主たる債務者である法人が弁済できない場合の担保となるのが保証人ですから、たとえ法人が倒産した場合でも、個人の保証債務がなくなることはありません。
そこで、保証人の負債を処理するには、法人とは別個に、個人の債務整理(任意整理、個人再生、個人破産)を行う必要があります。
[参考記事] 会社が破産したら連帯保証人は要注意!代表者が負う法律上の義務法人の債務
たんに事実上、事業を停止しただけでは、法人の負債もなくなることはありませんから、法人の負債をきちんと処理するためには、法人の債務整理を行う必要があります。
法人の債務整理の方法には、①任意整理、②民事再生、③法人破産、④特別清算があります(株式会社の場合は,会社更生という方法もあります。)。
法人の任意整理は、個人の任意整理と同様、各債権者との個別交渉で今後の返済条件を実行可能なものに変更してもらう整理方法です。
ただ、法人が廃業して事業をやめてしまう以上、それにかわって収益をあげる新事業がない限り、今後の分割弁済は期待できませんから、任意整理は無理でしょう。
法人の民事再生も、裁判所に分割弁済を認めてもらう制度ですから、事業をやめてしまう場合には利用する余地がありません。
そこで法人の廃業において、実際に利用できる債務整理方法は、法人破産と特別清算ということになります。
法人破産は、前述のとおり、破産管財人が法人の資産を処分して金銭に変え、各債権者に配当する制度です。手続が終了すれば、法人は法的に消滅し、債務もなくなります。
[参考記事] 会社破産の手続き|流れ・期間・必要書類と費用などまとめて解説特別清算は、会社法に基づき、株式会社を解散させて終了させる「清算手続」のひとつです(会社法471条、475条1項、510条)。
[参考記事] 特別清算の手続・流れ|破産との違いをわかりやすく解説現実には、取締役(経営者)だけで上記のような法的手続を進めることは困難ですから、代理人となる弁護士に依頼することが不可欠と言えます。
3.まとめ
廃業を決心したとしても、それだけでは債務の処理を終えることはできません。
廃業後の手続については、債務整理・法人破産に強い弁護士にご相談されることをお勧めします。