従業員対応

法人破産を検討する際に忘れてはならないのが従業員への対応です。

法人が破産した場合、その法人は解散して法人格が消滅します。そうすると、法人に雇用されていた従業員はすべて解雇になります。

従業員は解雇によって多大な不利益を被ることになりますので、混乱なく破産手続を進めていくためにも、法人破産の事実を従業員に伝えるタイミングや解雇のタイミング、説明の内容が非常に重要となります。

1.破産の事実はいつ話すべきか

会社が法人破産を決断したとして、そのことをいつ従業員に伝えれば良いのでしょうか。

まず、会社の経営者が法人破産の決断をしたとしても、直ちに従業員に伝えるということは控えましょう。今後の破産申立の具体的なスケジュールが確定していない状況で従業員に破産の事実を伝えたとしても、従業員に対して具体的な説明をすることができず、不安を煽るだけで混乱させてしまいます。

また、従業員のなかには、会社が倒産するかもしれないという情報を取引先に話してしまう可能性もあり、それによって更なる混乱を招くおそれがあります。

もっとも、従業員としても、突然破産の事実が告げられては再就職などの時間的な余裕がなく、生活に支障が出てしまいます。
そのため、破産申立の具体的なスケジュールが確定した場合には、破産申立日から逆算して事業廃止日を定め、その時点で従業員説明会を実施するなどして破産の事実を伝えると良いでしょう。

2.従業員説明会の実施

従業員に破産の事実を伝える場合には、従業員説明会を開催するなどして、従業員全員に一斉に説明するようにしましょう。
個別に説明を行うと、説明内容に差異があったり、タイムラグがあったりして誤解や不安を招く可能性があるからです。

従業員としては、会社が破産することによって自身にどのような影響が及ぶのか、今後の雇用関係はどうなるのかということについて関心を有していますので、その点を中心に、資料を準備するなどしてわかりやすく説明することが大切です。

具体的には、以下の点を説明することになります。

  • 法人破産の申立を決断し、事業廃止をすること
  • 破産によって全従業員が解雇されること
  • 従業員の給料、退職金、解雇予告手当の支払いについて
  • 雇用保険や社会保険の手続について など

破産申立時までに会社が従業員の給料・退職金・解雇予告手当などのすべてを支払うことができない場合には、従業員も債権者として破産手続の中で配当を受けることになります。
そのため、従業員に対して、労働債権の届出が必要であるということも説明する必要があります。

3.解雇のタイミング

従業員を雇用したまま破産申立をしたとしても、破産手続のなかで、破産管財人によって従業員の解雇が行われます。
しかし一般的には、破産申立をする前に全従業員を解雇するのが一般的です。

もっとも、情報漏えいのおそれがある場合や、破産手続を進めるにあたって従業員の協力が必要になる場合には、一部の従業員を解雇することなく、しばらく仕事をしてもらうというケースもあります。

法人破産を行う場合には、解雇予告期間を設けることなく、即時解雇をすることが一般的です。
即時解雇をする場合には、会社は、従業員に対して、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法20条)。

法人の危機的状況だからといって解雇予告手当の支払いが免除されるということはありませんので、法人破産を検討する段階で、どの程度の解雇予告手当が必要になるのかをあらかじめ計算し、必要な資金を確保しておくことが大切です。

なお、解雇予告手当は、破産手続上は優先的破産債権として、一般の破産債権よりも優先的な配当を受けることができますが、後述する未払賃金立替払制度の対象にはなりませんので注意が必要です。

4.未払賃金立替払制度の活用について

会社が従業員への給料などを未払いのまま倒産してしまった場合に、労働者を救済する制度として「未払賃金立替払制度」というものがあります。

(1) 未払賃金立替払制度とは

未払賃金立替払制度とは、会社の倒産によって給料や退職金などの賃金が支払われないまま退職した従業員に対して、独立行政法人労働者健康安全機構が未払い賃金の一部を立替払いする制度のことをいいます。

未払賃金立替払制度の対象となる賃金は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までの間に支払期日が到来している定期賃金と退職手当のうち、未払いとなっているものに限られます。

ボーナスは未払賃金立替払制度の対象外であり、立替払いされる金額は未払い賃金総額の80%です。ただし、立替払いの対象となる未払賃金総額には、退職日の年齢による限度額があります。

(2) 未払賃金立替払制度の利用要件

未払賃金立替払制度の利用をするためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 使用者側の要件
    • 1年以上事業活動を行っていたこと
    • 倒産したこと
  • 労働者側の要件
    • 破産の日、または事実上の倒産の日の前6ヶ月から2年以内に退職した労働者であること

「倒産」には、法律上の倒産(破産、特別清算、民事再生、会社更生)のほか、事実上の倒産(事業活動が停止して、再開する見込みがなく、賃金支払い能力がない状態)も含まれます。

また、①破産の日、または②事実上の倒産の日の前6ヶ月から2年以内に退職した労働者であることが要件となっています。

ここに①破産の日とは、裁判所への破産申立日であり、②事実上の倒産の日とは、労基署に事実上の倒産を認定してもらえるよう申請した日です。

したがって、会社が法人破産の申立をしなくても、労基署への申請によって、従業員は未払賃金立替制度を利用することができます。

ただ、会社が法人破産を申立すれば、労基署の認定をとる手間が省けますから簡明で、立替払いの実施も早まるので、従業員の利益を考えれば、早めの破産申立が望ましいといえます。

[参考記事] 法人破産のタイミング

(3) 未払賃金立替払制度の利用方法

未払賃金立替払制度の利用方法は、会社が法律上の倒産をしたのか、事実上の倒産をしたのかによって異なってきます。以下では、それぞれ分けて説明します。

①法律上の倒産の場合

  1. 裁判所や破産管財人などに証明書を発行してもらう
  2. 証明書に必要事項を記入して労働者健康安全機構に提出する
  3. 立替金が支払われる

会社が法律上の倒産をした場合には、裁判所または破産管財人に問い合わせをすることで倒産の事実などを証明する証明書を発行してもらうことができます。

証明書の取得後に、「立替払請求書」に必要事項を記入し、労働者健康安全機構に提出します。

労働者健康安全機構では、提出書類や破産管財人への照会などによって請求内容の審査を行い、支払いを決定した場合には、指定口座に立替払金が支払われます。

②事実上の倒産の場合

  1. 労働基準監督署で認定申請書を交付してもらう
  2. 労働基準監督署へ確認申請書を提出
  3. 交付された確認通知書を労働者健康安全機構に提出する
  4. 立替金が支払われる

事実上の倒産の場合には、そのことを労働基準監督署に確認してもらう必要があります。そのため、まずは、労働基準監督署から「認定申請書」の交付を受けて、それに必要事項を記入し、労働基準監督署に提出します。

労働基準監督署が事実上の倒産を認定する場合には、「認定通知書」が交付されますので、次は、未払い賃金の金額などを記載した「確認申請書」を労働基準監督署に提出して、「確認通知書」の交付を受けます。

そして、必要事項を記入した確認通知書を労働者健康安全機構に提出すれば、審査が行われ、問題がなければ立替払金が支払われます

5.まとめ

法人破産によって、雇用している従業員には多大な迷惑をかけることになります。
従業員への説明は誠実に対応するとともに、未払い賃金が発生する可能性がある場合には、未払賃金立替払制度を案内するなどして、従業員への不利益を減らすように努めましょう。

従業員への対応につきましても、法人破産の解決実績豊富な泉総合法律事務所にご相談ください。アドバイスをさせて頂きます。

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