飲食店が廃業する際の手続き|スムーズな閉店のために
飲食店が廃業する場合、役所関係を中心として、さまざまな手続きが必要となります。
円滑に後腐れなく閉店を完了するために、必要な廃業手続きを整理しておきましょう。
今回は、飲食店が廃業する際の手続きについて、全体像をわかりやすく解説します。
1.飲食店が廃業する際に必要な手続き
飲食店の廃業に当たっては、役所に提出すべき書類がたくさんあります。
すべての事業者に共通するものから、飲食店に特有のものまで多種多様なので、スケジュールを立てて漏れなく提出しましょう。
(1) 飲食店に共通して必要な廃業手続き
飲食店を廃業する場合、共通して以下の手続きをとることが必要です。
①食品営業の廃業届を提出
所轄の保健所に提出します。
提出期限は保健所によりますが、廃業の翌日から10日以内となっているケースが多いです。
参考:食品営業「廃業届」|東京都北区
②防火・防災管理者の解任届を提出
所轄の消防署または消防出張所に提出します。
提出期限は特に定められていませんが、早めに提出しましょう。
参考:防火・防災管理者選任(解任)届出について|東京消防庁
(2) 深夜に酒類を提供している飲食店に必要な廃業手続き
深夜酒類提供飲食店営業開始届出書を提出している飲食店に限り、所轄の警察署に対して、深夜酒類提供飲食店営業の廃止届出書を提出する必要があります。
提出期限は警察署によりますが、廃業の翌日から10日以内のケースが多くなっています。
参考:廃止届出書(様式一覧)|警視庁
(3) 税務署との関係で必要な廃業手続き
飲食店が廃業する場合、税務署との関係では、以下の手続きが必要になります。
①個人事業の廃業届を提出する
納税地を管轄する税務署に提出します。提出期限は、廃業日から1か月以内です。
参考:個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁
②所得税の青色申告の取りやめ届出書を提出する
青色申告をしている事業者に限り、納税地を管轄する税務署に提出します。提出期限は、廃業日の翌年3月15日です。
参考:所得税の青色申告の取りやめ手続|国税庁
[参考記事] 「所得税の青色申告の取りやめ届出書」とは|個人事業主③消費税の事業廃止届出書
消費税の課税事業者に限り、納税地を管轄する税務署に提出します。廃業後速やかに提出すべきものとされています。
参考:事業廃止届出手続|国税庁
④給与支払事務所等の廃止届出書
従業員(青色事業専従者を含む)に対して給与を支払っている場合、給与支払事務所等の所在地を管轄する税務署に提出します。
提出期限は、廃業日から1か月以内です。
参考:給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁
(4) 社会保険との関係で必要な廃業手続き
飲食店が社会保険の適用事業所である場合、社会保険との関係で、以下の手続きをとることが必要です。
①雇用保険に関する手続きを行う
従業員を雇用している関係で、雇用保険に加入している場合には、以下の書類をハローワークに提出します。
- 雇用保険適用事業所廃止届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
提出期限は、廃業の翌日から10日以内です。
参考:事業所を廃止したときの雇用保険の手続きはありますか。|北海道ハローワーク
②年金事務所に書類を提出する
雇用保険に加入している場合は「雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)」のコピーを、所轄の年金事務所に提出します。
また、厚生年金保険・健康保険に加入している場合は、「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を、所轄の年金事務所に提出します。
提出期限は、いずれも廃業日から5日以内です。
参考:適用事業所が廃止等により適用事業所に該当しなくなったときの手続き|日本年金機構
③労働保険確定保険料申告書を提出する
雇用保険または労災保険に加入している場合には、所轄の労働基準監督署に提出します。
提出期限は、廃業日から50日以内です。
2.役所関係以外に必要な廃業手続き
役所に届け出を行う以外にも、飲食店を廃業する際には、以下の各点について対応する必要があります。
いずれもある程度の準備期間が必要となりますので、スケジュールを立てて計画的に対応しましょう。
(1) テナント物件の解約
店舗物件を賃借している場合には、賃貸借契約の解約が必要となります。
解約の方法は、賃貸借契約の規定に従います。
解約のタイミングによっては、残りの賃貸借期間に対応する賃料の支払い等が必要になるかもしれません。
廃業に関する検討を開始する段階で、早めに賃貸借契約の内容を確認し、解約に向けたスケジュールを立てておきましょう。
(2) 従業員の解雇
飲食店を廃業する場合、廃業の時点で従業員を全員解雇することになります。
解雇を行うに当たっては、労働法の規定を遵守して対応する必要があります。
たとえば、解雇は原則として30日以上前に予告する必要があり、予告から30日未満で解雇する場合には「解雇予告手当」を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。
また、仮に従業員に対して賃金全額を支払えないとすると、従業員の生活に支障が生じることになりかねません。
その場合には、「未払賃金立替払制度」の利用を案内するなど、経営者として、従業員が困らないように対応することが大切です。
参考:未払賃金立替払制度の概要と実績|厚生労働省
廃業に伴う従業員の解雇に関しては、多くの注意点が存在するため、弁護士にご相談のうえで対応することをお勧めいたします。
[参考記事] 会社が破産したら従業員はどうなる?どのように対応すべきか(3) 取引先への連絡
飲食店が廃業する際には、取引先にも連絡する必要があります。
特に、仕入先との契約は、廃業に合わせて解約しなければなりません。
解約のタイミングがずれると、閉店を早めなければならなくなったり、閉店したのに食材が納品されてしまったりする可能性があるので注意が必要です。
3.法人の場合に必要な廃業手続き
個人事業主とは異なり、法人が廃業する際には、非常に複雑な手続きが必要になります。
株式会社の場合、廃業手続きは以下の流れで進行します。
- 株主総会による解散決議・清算人の選任
- 解散・清算人の登記
- 税務署・都道府県税事務所・市区町村への解散の届出
- 解散に伴う確定申告(1回目)
- 清算人による財産調査・財産目録等の作成
- 債権者に対する債権申出の公告・催告
- 債権者に対する債務の弁済
- 株主に対する残余財産の分配
- 決算報告の作成
- 清算結了登記
- 税務署・都道府県税事務所・市区町村への清算結了の届出
- 残余財産確定に伴う確定申告(2回目)
- 帳簿書類の保存
上記の各手続きについては、有限会社の廃業に関する以下の記事で解説しているので、併せてご参照ください(株式会社と有限会社の廃業手続きは基本的に同じです)。
[参考記事] 有限会社を廃業するには?解散・清算・法人破産の手続きや費用4.廃業時に債務が残っている場合はどうする?
飲食店を廃業する段階で、事業に関する債務が残っている場合には、すべて弁済するか、または破産手続きを申し立てる必要があります。
(1) 原則としてすべて支払う必要がある
通常の手続きによって飲食店を廃業する場合、事業用の債務はすべて支払う必要があります。
もし手元資金が不足しているならば、債権者との間で個別に交渉して、支払期限を延ばしてもらうことも考えられます。
債権者対応に不安がある場合には、弁護士にご相談ください。
(2) 債務が支払えない場合は破産手続き
飲食店の債務が支払えない場合には、破産手続開始の申立てを検討する必要があります。
特に、法人経営の飲食店を廃業する場合には、法人格が消滅しますので、債務を支払えない場合には法人破産を申し立てることが必要です。
自己破産や法人破産には煩雑な対応が必要となりますので、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
弁護士にご相談いただければ、法人破産の手続きをスムーズに進めることが可能です。
また、裁判所によっては「少額管財」を利用することができ、裁判所に納付する予納金額を低額に抑えられます。
破産手続きを通じた飲食店の廃業をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5.まとめ
飲食店が廃業する場合、保健所・消防署・警察署・税務署・年金事務所・労働基準監督署に対して各種届出を行う必要があります。
また、店舗物件に係る賃貸借契約の解約・従業員の解雇・取引先への連絡など、他にもさまざまな対応をしなければなりません。
さらに、債務が支払い切れない場合には、自己破産や法人破産を検討する必要も生じます。
飲食店を廃業する際には、状況に合わせて必要な手続きを整理し、計画的に対応を進めることが大切です。