マンションの管理費滞納分を回収する方法
マンションは複数の人間が共同生活を送る場であり、区分所有者は共同生活を維持するための義務を負担します。管理費を支払うこともそのひとつであって、これを拒否することはできません。
しかし、このマンション管理費を滞納され、困っているというマンション管理組合の役員及び管理会社の担当者の方もいらっしゃるでしょう。
管理会社が管理組合に代わって債権回収業務を行うことは、非弁行為(弁護士法第72条違反)に当たる可能性もあります。
よって、マンションの管理費滞納問題については弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
今回は、マンションの管理費滞納分を回収する手段について解説します。
1.マンション管理費の支払義務の根拠
マンション管理費とは、建物、敷地内やその他の設備を維持管理するための費用(例:屋上、通路部分、階段部分、ゴミ捨て場などの清掃費、共用部分の照明やエレベーターの電気代、エレベーターの保守点検費など)をいいます。
マンションの管理費の支払いの根拠は、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」)に定めがあります。
<区分所有法第19条>
「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」
「共用部分」とは、①マンションの区分所有権の目的となっている「専有部分」以外の建物の部分(例:躯体部分、支柱、屋根、廊下、階段など)、②専有部分に属しない建物の附属物(例:エレベーター機械、電気・ガス・水道の配線配管など)、③管理規約によって共用部分とされた附属の建物(例:管理人室、集会室など)を言います。
この条文は、各共有者に、これら共用部分の日常的な維持管理のためのマンション管理費や、大規模修繕工事に備えるための修繕積立金の負担を義務付けています。
マンションの管理費(修繕積立金を含む)の滞納は、金銭債務の不履行に当たります。
よって、債務者は法定利率の年3%(2021年時点)または規約で決められた利率の遅延損害金を支払わなければなりません(民法第419条第1項)。
2.管理費支払い督促の流れ
では、マンションの管理費を滞納された場合、どのような流れで督促・債権回収を計れば良いのでしょうか。
(1) 催告
まずは、滞納者に対して、適正に管理費を払うように督促をすることになるでしょう。
管理組合を代表する理事長から書面や電話などで支払いの催告(督促状)を送ることと思います。
(マンションによっては、管理組合から依頼を受けた弁護士等から催告の連絡をすることもあるでしょう)。
なお、書面による場合、内容証明郵便で送付することが有効です。
内容証明の文書は催告をしたことを示す証拠となり、後で裁判などに提出できます。内容証明を送って証拠を作っておけば、将来的に有利に立ち回れる可能性があるのです。
それだけでなく、内容証明を送られた相手は、債権者が本気で督促に乗り出したと身をもって知ることになり、任意の弁済を促す効果も高いです。
また、手間がかかりますが、理事長・理事が訪問して催告をすることも有用でしょう。
(2) 法的措置
再三の督促・催告にも関わらず任意の支払いを受けられない場合、裁判所の手続きを利用することが考えられます。
債権を回収するための法的措置には、主に以下のような手続きがあります。
支払督促
支払督促は、強制執行(債務者の財産の差押え)を行うためのステップとなる手続きです。
簡易裁判所の書記官に申し立てて、書類審査のみの簡易な手続きを経て、裁判所書記官が滞納者に対して支払督促正本を送達します。
送達後一定期間が経過し、その間に滞納者から異議がない場合には、申立人の請求によって支払督促に仮執行宣言が付され、後述する強制執行が可能となります。
なお、滞納者が異議を申し立てた場合は、通常の訴訟に移行します。
[参考記事] 支払督促とは|やり方などをわかりやすく解説少額訴訟
少額訴訟は、訴訟の目的が60万円以下の金銭の支払いを求める場合に取ることのできる手続きで、判決まで長期間かかる通常の訴訟と異なり、基本的には1日で審理が終了する訴訟手続きです。
しかし、1度の審理で判決が出てしまうので、証拠や証人をしっかりと準備する必要があります。
少額訴訟の裁判に勝つと「仮執行宣言」というものが付与されます。これがあれば強制執行に移って、債務者の財産を差押えできます。
比較的少額となる管理費の徴収を短期間で徴収することができるでしょう。
しかし、この手続きも、訴えられた滞納者が通常の裁判手続きを希望し、その申立をした場合には通常の訴訟手続きに移行することとなります。
また、少額訴訟の判決に不服があるときでも、控訴することができません。
通常の訴訟手続き
債権者が裁判所に訴状を提出して行います。
(既に解説したとおり、支払督促や少額訴訟から通常の裁判手続きに移る場合もあります。)
請求する金額が140万円以下の場合には簡易裁判所での審理、140万円を超える場合は地方裁判所での審理になります。
裁判では法廷で債権者と債務者が証拠を提出し、それぞれの主張を行います。これを何度か繰り返したあと、裁判官がどちらの主張が正しいかを判断して、判決に至ります。
お互いの主張が平行線で、お互いに証拠も十分だと、審理に何ヶ月、ときには1年以上もかかります。速やかな債権回収が難しいことも多いです。
(3) 強制執行
強制執行は、判決が確定した場合など、債権者が「債務名義」を取得したら行える手続きです。滞納者の資産を差し押さえて、その差し押さえた資産から弁済を受けることとなります。
基本的には、これまでにご紹介した支払督促・少額訴訟・訴訟などを経て債務名義を獲得します
[参考記事] 債務名義とは|取得方法・時効など差し押さえられる財産の対象としては、動産、不動産、給与などがあります。
もっとも、全ての財産を差し押さえてしまうと差し押さえを受けた者が最低限の生活すらできなくなることから、動産であれば生活用品が除かれ、給与も一定の金額のみ差し押さえることができるなどの制限があります。
[参考記事] 強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど(4) 競売
強制執行により債権を回収できたとしても、今後も不払いが続き、滞納が原因でマンションの管理や修繕に支障を生じるような場合があるかもしれません。
また、そもそも差し押さえられるだけの財産を債務者が保有していない可能性もあります。
不払いは「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法第6条)であり、「共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」程度に達していれば、管理組合の決議を経た上で、滞納者のマンションの部屋の競売を申し立てる(区分所有法第59条第1項)こともできます。
すなわち、滞納者はマンションの所有権を失い、追い出されることになります。
なお、管理組合は管理費用の請求権について債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む)及び建物に備え付けた動産の上に「先取特権」を持っています(区分所有法7条1項)。
これによって、管理組合は、訴訟を提起することなく、滞納している区分所有者の区分所有権を競売にかけることにより管理費の回収を図ることができます。
ただし、区分所有者に対する先取特権に基づいて不動産を競売する場合、先取特権は登記のある抵当権等には劣後するので、配当を受けられない可能性もあります。
なお、管理費の滞納があったままその区分所有権が第三者に売却された場合は、これを譲り受けた者に対しても、滞納分の管理費を請求することができます。
【マンション管理費の請求権の時効】
マンションの管理費の請求権は、債権にあたりますので、その権利が行使できることを知ってから5年または行使できる時から10年行使しない場合には、時効により消滅します(民法第166条第1項)。迅速な対応をする必要があるでしょう。
参考:債権回収の消滅時効は?時効期間・完成阻止の方法
3.不払いを公表することはできる?
不払いを公表することで心理的なプレッシャーを与え、任意の支払いを促したいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、これには慎重になるべきと言えます。
マンション管理規約に「管理費等が支払えない場合が長期に渡る場合には、氏名を公表する」との規約があれば、公表すること自体は可能でしょう。
しかし、公表が名誉毀損などの不法行為となるか否かについては、裁判例の傾向としては、滞納額、公表に至るまでの経緯、公表の方法、文言、目的・動機など諸事情を考慮して違法性が判断されています。
事案によって異なる判断となり、逆に公表した側が不法行為で訴えられてしまう可能性もあります。
4.マンション管理費滞納の債権回収も弁護士へ
マンションの管理組合の方は日常の業務も多く、債権回収にまで手が回らないことも多いかと思います。
そうでなくても、なかなか滞納が解消されない債権の回収については、専門家である弁護士にお任せいただくことがお勧めです。
債権回収は弁護士に依頼するとスムーズかつ成功率を高くできます。依頼人は、日常の業務をこなしながら債権の回収を待つだけです。
弁護士費用が多少かかったとしても、手慣れた弁護士に依頼することで、回収を諦めていた債権を回収できるかもしれませんし、債権回収が迅速に終わる可能性も高まります。
債権回収は、知識豊富な泉総合法律事務所にお任せください。