債務名義とは|取得方法・時効など
債務者が借金を返済しない場合に、最終手段として検討するのが「強制執行」です。裁判所で手続きを行い、強制的に相手の財産を差し押さえます。
しかし、強制執行をするためには、事前に「債務名義」の取得が必須です。
今回は、強制執行に必要な債務名義についてご説明します。
1.債務名義とは
(1) 強制執行と債務名義の関係
債務名義とは、強制執行を申し立てるために必要な文書であり、裁判所が強制執行をすることを許可する文書のことを指します。
内容としては、強制執行が行われる請求権が存在すること、請求権の範囲、債権者、債務者を証明することが書かれています。
債務者が借金等を返済しない場合には、催告等により返済を促しますが、何度催促を行っても返済しない場合があります。
このまま放置していると債権を回収できないだけでなく、債務者が債務整理手続きを行うなどして返済可能性が低くなってしまいます。
そこで債権者には、債務者と債権者との間に債務があることを公的に証明することにより、強制的に債務者の財産から債権額分を回収する方法が用意されています。これが強制執行です。
債権者の中には、契約書で当該債務者との間で債権の存在があることは確認できると考える方も多いと思いますが、契約書はあくまでも当事者間の合意の内容を示すものです。
債権があることを公的に証明するためには、裁判所からのお墨付きが必要であるため、債務名義を取得する必要があるということです。
債務名義を取得すると、強制執行が可能となります。
(2) 債務名義の効果
強制執行により、(債務者が拒否しようとしても)強制的に債権額まで回収を図ることができます。
具体的には給与や預金を差し押さえたり、債務者が所有する不動産等を差し押さえたりすることで、債権額分までを回収できます。
ただし、債務者も生活をしていかなければいけませんので、給与の全てを差し押さえるなどはできません。しかし、一定の範囲で債務者の財産から回収を図ることは可能と覚えておきましょう。
債務名義を確認すると、執行機関は強制執行の手続きをスムーズに進めてくれます。
債務名義は、借金等の返済が遅れたときに取得する方も多いですが、特に時期の制限などはありません。そのため、将来的な不履行に備え、債務名義を取得することも可能です。
裁判所にて手続きを行うことが面倒に感じる場合は、契約の段階で当事者の話し合いにより公正証書を作成することもできます。公正証書に強制執行認諾条項を入れれば、公正証書自体を債務名義にすることができます。
[参考記事] 債権回収における公正証書の重要性このように、債務名義があれば、未回収債権の問題を解決できる可能性が高まるというメリットがあります。
【債務名義の時効|取得したら早めに強制執行すべき?】
債務名義を取得したら、いつまでもその書面を有効に利用できるのでしょうか?
結論からいうと、債務名義にも期間による限定があります。これを債務名義の時効といいますが、民法上は10年となります。
時効の起算日は、債務名義が取得された期日の翌日です。ビジネスにより売掛債権の場合や消費者金融による貸金債務の場合は、債権自体の時効は5年となりますので、債権の消滅時効の完成間近に債務名義を取得した場合は、全体で換算すると約15年で時効となります。
以上から、債務名義にも時効がありますので、気をつけておく必要があるでしょう。
2.債務名義の種類と取得方法
(1) 債務名義の種類
債務名義にはいくつかの種類があります。
- 裁判所の確定判決
- 仮執行宣言のある判決
- 裁判所の和解調書
- 調停調書
- 公正証書にしてある強制執行認諾条項入り契約書
- 仮執行宣言付支払督促
裁判所の確定判決とは、裁判所に訴訟を提起し、判決が下され、上訴できない状態となった判決のことです。
仮執行宣言のある判決とは、上訴できるものの、強制執行可能な判断がついた判決を指します。
確定判決と同一の効力を有するものとして、裁判所の和解調書を挙げることができます。裁判途中で和解にて解決した際、裁判官によってこの内容を記した書面を和解調書といいます。
また、裁判ではなく調停をという紛争解決手続きでの合意の内容をまとめた調停調書も債務名義となります。このほかにも、認諾調書や即決和解、刑事和解なども確定判決と同一の効力を有するものに含まれます。
仮執行宣言付支払督促とは、支払督促という未回収債権の回収を目的とする手続きにて、強制執行可能な判断が付されたものです。
公正証書にしてある強制執行認諾条項入り契約書とは、債務者・債権者の合意により、債務不履行があった場合に強制執行ができる旨を記載した文書(公正証書)のことを指します。
(2) 債務名義の取得方法
では、これらの債務名義を取得するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
一般的には、訴訟を提起することで債務名義を取得することができます。
債務者に対し、貸金の返還や売掛債権の支払いを請求する訴えを提起します。訴訟にて裁判所が事実、権利義務について確認し、認容判決または和解となれば債務名義を取得できます。
この他にも少額訴訟や民事調停、支払督促の手続きを裁判所に請求することで債務名義を取得することが可能です。
通常裁判の場合は、申立から判決まで半年以上かかるため、時間を短縮したい場合で、利用できる場合には少額訴訟(60万円以下の金銭債権の場合)や支払督促によって債務名義を得る方法がおすすめです。
裁判手続きによる以外の方法としては、公正証書を作成する方法もあります。
公正証書を作成するには、公証役場に出向き、公正証書の作成を申し込む必要があります。裁判とは異なるため、債務者との合意が必要です。
このように、債務名義を取得するためには、一般的に多くのケースで裁判所での手続きが必要です。
3.債務名義取得から強制執行までの流れ
裁判等によって債務名義を取得したら、強制執行を進めることができます。
しかし、債務名義を取得したら、あとは強制執行をお願いするだけということではなく、他にも手続きが必要です。
具体的には、①執行文の付与の申立て、②債務名義の送達証明申請、③強制執行で債権を回収、という流れで手続きを進めていきます。
(1) 執行文の付与の申立て
執行文とは、当該債務名義が強制執行の申立てができることを公的に証明するための文書のことをいいます。
債務名義の中には執行文が付与されているものもありますので、この場合は執行文付与の手続きは必要ありません。
具体的には、仮執行宣言付支払督促、少額訴訟判決の場合には執行文付与は執行文がついているため、申立ての必要はありません。
執行文を取得するには、裁判所に申立書と印紙300円分、債務名義の正本を提出します。
(2) 債務名義の送達証明申請
次に、債務名義の送達証明申請が必要です。
債務名義を得た裁判所にて送達証明申請を行います。債務者に債務名義が送達されたことを証明するためのものです。
(3) 強制執行
最後に、強制執行の申立てを行います。
債権執行と不動産執行の場合で流れが異なりますが、詳しくは以下のコラムをご覧ください。
強制執行においても、債権の全額が回収できるとは限りません。回収率を高めるためにも、早めに弁護士に相談し適切な回収プロセスを経た上で、最終手段として強制執行を進めていくべきです。
4.売掛債権、貸金債権の回収は弁護士に相談を
「取引先がなかなか代金を支払ってくれない」「債務者が借金を返済しない」などのお悩みがある場合には、弁護士にご相談ください。
債権回収に詳しい弁護士は、回収プロセスや交渉術についての経験や知識が豊富にあり、結果的に回収率を高めることができます。
支払いが滞り始めたら、泉総合法律事務所の弁護士までお早めにご連絡ください。