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債権回収の重要知識

債権回収における民事調停の有効性と利用方法

債権を回収するとき、しばしば裁判所を利用することがあります。

裁判所を使う手続きと言えば「訴訟を提起する」、いわゆる「裁判をする」というイメージが強いかもしれません。
しかし訴訟以外にも、裁判所を使って債権を回収する方法は複数存在します。

ここでは、その1つである「民事調停」について解説します。
民事調停は、うまくいけば訴訟よりも早く債権を回収できる方法です。本記事で理解を深めていただければと思います。

1.民事調停について

まずは「民事調停」という制度の概要を、訴訟と比較しながら説明していきます。

(1) 訴訟とは

訴訟についての概要は、いわゆる「裁判」のイメージで問題ありません。

もちろん、実際の裁判とテレビドラマなどで描かれる裁判とは、細かい部分でいくつもの差異が存在します。しかし「当事者が法廷に来て、証拠を提出し、自分の意見を主張するなどして審理を行い、最終的に裁判官が判決を下す」という流れは大体同じでしょう。

裁判所の判決には当事者の双方が従うことになります。原告の訴えが認容された(勝訴した)にも関わらず被告が判決に従わない場合、原告は判決文を使って強制執行の申立てを行うことができます。
すなわち、被告の財産を差し押さえるなどして、強制的に債権を回収することが可能なのです。

(2) 民事調停とは

民事調停では、裁判官1人と調停委員2人で構成される「調停委員会」が進行役となります。

民事調停は訴訟と違い、非公開の場で行われます。
会議室のような場所に、調停委員と当事者が集まって話し合うイメージです。

進行役の調停委員会は、同じ部屋に呼び出した当事者から意見を聞きます。
なお、当事者同士が顔を合わせたくない場合は、交互に呼び出すこともあります。

当事者は調停委員に対して、それぞれ「借金を返して欲しい」「あれはもらったお金だ」などと自分の主張を行います。当事者同士の言い争いを避けるために、調停委員が間に入って双方の主張を聴取するのです。

そして調停委員は適宜「それでは、このようにしてはいかがですか?」などと和解に向けたアドバイスを行います。

話し合いの結果、当事者が和解すれば調停調書の作成に進みます。
和解に至らない場合、再度調停の場を設けるか、裁判所が和解案を出すか、調停を打ち切るなどします。

2.民事調停のメリットとデメリット

民事調停を行う前に、前もってメリットとデメリットを理解しておきましょう。

(1) メリット

手続きが簡単で費用が安い

裁判所の他の手続きに比べて申立ての手続きが簡単なため、法律の手続きに慣れていない人でも自力で申立てができます。

費用も訴訟などに比べると安いため、負担を抑えて債権を回収したい場合に向いています。

裁判より早く終わる

裁判は時間がかかりやすく、1年以上の長期にわたることもあります。

しかし民事調停は、当事者が合意すれば1回で終わります。大抵は申立てから3ヶ月以内に、2~3回の話し合いで終わるようです。

時効の進行をストップできる

民事調停の申立てが受理されてから民事調停が終わるまでは、債権の消滅時効の進行がストップします。

そして調停が成立すると、消滅時効の成立に必要な期間が調停の終了から10年に延長されます。

[参考記事] 債権回収の消滅時効は?時効期間・完成阻止の方法

調停調書には確定判決と同じ効果がある

民事調停の調停調書には確定判決と同じ効力があるため、相手が和解内容に違反した場合は、調停調書を使って強制執行の申立てができます。

強制執行をして相手の財産を差し押さえれば、その財産から債権を回収できます。

[参考記事] 強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど

(2) デメリット

出頭の義務がない(相手が来ない可能性)

民事調停への出席はあくまで任意です。せっかく自分が仕事を抜け出して調停の場に行っても、相手が来ない可能性があります。

相手がいないと調停は次回に持ち越しか、打ち切りなどになってしまいます。

話し合いが不調になる可能性

相手が主張を譲らなかったり、反抗的な態度でいたりする場合は、話し合いになりません。
仮に話し合いになったとしても、大幅な譲歩や債務の減免などを主張されることがあります。

話が余計にこじれてしまい、「最初から裁判をしておけばよかった…」と後悔するケースもあるようです。

相手の居所が不明だと調停ができない

債務者が夜逃げをするなどして住所がわからないと、民事調停を利用できません。

調停は話し合いの場ですので、相手の居場所が分からず呼び出すことができない場合は、そもそも調停を利用できないのです。

3.民事調停の必要書類・費用

では、民事調停ではどういった書類が必要で、また、費用はいくらかかるのでしょうか?

(1) 必要書類

相手へ請求する内容によりますが、多くの場合以下の書類が必要です。

  • 契約書の写し(貸金契約書、売買契約書、賃貸契約書など)
  • 登記事項証明書(商業登記簿謄本):当事者が法人の場合。債権者と債務者双方のもの。法務局で取得。
  • 不動産登記事項証明書(商業登記簿謄本):不動産に関する事件の場合。法務局で取得。
  • 調停申立書

調停申立書は、裁判所のサイトに書式と記載例がアップされています。
また、各簡易裁判所にも書式が置いてあります。不安な場合は簡易裁判所の窓口へ行って、教えてもらいながら記入してください。

(2) 申立費用

申立費用は申立書に収入印紙を貼って納付します。

収入印紙の代金は請求金額に応じて以下のように変動します。

請求金額 印紙代
100万円以下 10万円ごとに500円ずつ加算
100万円超、500万円以下 20万円ごとに500円ずつ加算
500万円超、1000万円以下 50万円ごとに1000円ずつ加算
1000万円超、10億円以下 100万円ごとに1200円ずつ加算
10億円超、50億円以下 500万円ごとに4000円ずつ加算
50億円超 1000万円ごとに4000円ずつ加算

上記のほかに相手方と連絡するための切手代が必要です。具体的な金額は裁判所によって異なるため、申立て前に窓口や電話で確認してください。

4.民事調停の流れ

民事調停は基本的に以下の流れで行われます。

(1) 申立ての準備

上記の必要書類を揃えます。また、話し合いの際に証拠になる書類も用意します。相手とやりとりした請求書や領収書、場合によってはプリントアウトしたメールも証拠になる可能性があります。

できれば弁護士に相談して、効果的な証拠を揃えてください。

(2) 申立て

原則として「相手の住所を管轄する簡易裁判所」へ申立てを行います。用意した必要書類を簡易裁判所の窓口に提出してください。

このとき申立費用も支払います。具体的な金額は後述します。

(3) 期日の決定と当事者の呼び出し

裁判所が調停委員を組織し、調停期日を決定します。
相手方には調停申立書の副本と同時に、裁判所への出頭を伝える呼び出し状が送付されます。

正当な理由なく欠席した当事者は5万円以下の過料に処されることになっていますが、実際に適用される例は少ないようです。

決定された期日にどうしても都合がつかない場合は、すぐ裁判所に電話で相談してください。期日の変更や代理人の出頭を認めてもらえる可能性があります。

(4) 調停開始

期日に調停委員と当事者が集まったら、調停委員を通して当事者が話し合いを行います。

合意に至れば調停調書の作成に移ります。
合意に至らない場合、新たに調停期日を設定して次の調停を行います。

(5) 調停調書の作成

合意に至った場合は調停調書が作成され、民事調停の手続きが終了します。

 【調停に代わる決定】
話し合いで解決できる見込みがないと調停委員が判断した場合、裁判所が解決案を提示することがあります。これを「調停に代わる決定」や「17条決定」と言います(民事調停法17条)。
当事者双方がこの決定に異議を述べなければ、当事者は決定の内容に合意したことになります。
決定から2週間以内に書面による異議があった場合、この決定は効力を失います。調停が終わるため、債権者は訴訟などで債権の回収を図ることになります。

5.民事調停を弁護士に依頼するメリット

民事調停は自力で最初から最後まで行うことも不可能ではありません。

しかし、弁護士に依頼することで、以下のようなメリットを受けられます。

(1) 申立てから裁判所への出頭まで代行してくれる

弁護士に任せれば、弁護士が調停に必要な書類を揃えて裁判所で手続きをしてくれます。

調停期日には原則的に自分で出頭する必要がありますが、事前に手続きをすれば弁護士による代理出席が認められます。

弁護士は主張するべきところをしっかりと主張してくれるため、調停を有利に進められるでしょう。

(2) 相手が出頭しやすくなる

債権者に弁護士がついていると知った債務者は、間違いなく警戒します。
結果として民事調停に出頭する可能性が高くなり、欠席によって民事調停が無駄になるおそれが少なくなります

相手が出頭してさえいれば、和解に持ち込める可能性があります。うまく和解できれば効率的に債権を回収できます。

(3) 訴訟への移行もスムーズ

万が一調停が不調に終わったとしても、それまでの事情を知っている弁護士であれば、速やかに訴訟など次の手段を講じることができ、結果的に早く債権を回収しやすくなります。

6.まとめ

民事調停は裁判よりも簡易的で、一般の方が自力で行うことも不可能ではありません。
しかし、上記のように弁護士に依頼するメリットは多くありますので、確実な債権回収のためにも、できるだけ早い段階から弁護士の力を借りることをおすすめします。

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