会社が破産した場合、役員(経営者)は責任を負うか?
会社の債務が支払えない状態が長期化すると、法人破産しか選択肢がなくなってしまいます。
しかし、株主や債権者から責任を追及されることを恐れて、なかなか法人破産に踏み切れないという役員(経営者)の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
たしかに法人破産を申し立てた場合、役員が株主や債権者から責任を追及されることはありますが、実際に責任を負うケースが全てではありません。
この記事では、会社が破産した場合、役員(経営者)は責任を負うかどうかについて解説します。
1.会社の破産について役員が責任を負う場合
会社と役員は別人格なので、当然に会社の債務を役員が支払う義務を負うわけではありません。
例えば、役員が無限責任社員であったり、役員が会社の債務を保証していたりするケースでは、会社の債務を支払う義務を負い、結果として役員個人も自己破産に追い込まれる可能性が高いです。
[参考記事] 会社が破産したら代表者はどうなる?個人資産の扱いなどこれとは別に、株式会社の役員が任務を怠った場合、会社に生じた損害を賠償する義務を負います(会社法423条1項)。持分会社の業務執行社員についても同様です(会社法596条)。
また、株式会社の役員や持分会社の業務執行社員の職務につき、悪意または重大な過失があった場合には、債権者や株主などの第三者に生じた損害を賠償しなければなりません(会社法429条1項、597条)。
なお、株式会社の役員の会社に対する任務懈怠責任については、以下のいずれかの方法により、最低責任限度額を超える部分について免除が認められています。
- 株主総会特別決議による免除(会社法425条1項)
- 定款に基づく免除(会社法426条1項)
- 責任限定契約に基づく免除(会社法427条1項)
<最低責任限度額>
- 代表取締役、代表執行役:年間報酬の6倍
- 代表取締役以外の業務執行取締役、代表執行役以外の執行役:年間報酬の4倍
- 非業務執行取締役、会計参与、監査役、会計監査人:年間報酬の2倍
2.役員の任務懈怠責任が認められるケース
役員の任務懈怠責任が認められる典型的なケースは、役員自身が法令違反を犯した場合です。
また、他の役員や管轄部署の法令違反を過失により見逃した場合にも、監督により阻止することが期待できた場合には、任務懈怠責任が認められることがあります。
これに対して、取締役が経営判断のミスによって会社に損害を与えた場合には、「経営判断の原則」が適用されます。
経営判断の原則とは、取締役によるリスクテイクを過度に委縮させないようにするため、役員の任務懈怠責任の範囲を狭く限定する考え方です。
最高裁判例の規範によると、経営判断として「著しく不合理」と評価できない限り、取締役の任務懈怠は認められないとされています(最高裁平成22年7月15日判決)。
3.役員の任務懈怠責任を追及する手続きの流れ
破産手続開始の決定がなされると、会社は解散します(会社法471条5号)。
そのため、会社自身が役員の任務懈怠責任を追及することはできなくなりますが、その代わりに、破産手続きの中で役員の任務懈怠責任を追及する手続きが用意されています。
破産手続きにおいて、役員の任務懈怠責任を追及する手続きの流れは、以下のとおりです。
(1) 役員の財産に対する保全処分
法人破産のケースにおいて、裁判所が必要と認めるときは、破産管財人の申立てによりまたは職権で(緊急の必要があると認めるときは債務者による申立てによっても)、役員の任務懈怠責任に基づく損害賠償請求権につき、当該役員の財産に対する保全処分を行うことができます(破産法177条1項、2項)。
保全処分が行われるのは、仮に役員の任務懈怠責任が認められた場合に、損害賠償として回収する財産をあらかじめ確保しておくためです。
(2) 役員に対する損害賠償請求権の査定
裁判所は、破産手続開始の決定後に必要と認めるときは、破産管財人の申立てによりまたは職権で、役員の任務懈怠責任に基づく損害賠償請求権の査定を行います(破産法178条1項)。
査定の裁判では、諸般の事情を総合的に考慮して、役員の任務懈怠の有無や悪質性の程度、会社に生じた損害額などが審査・認定されます。
その際裁判所は、役員に対する審尋を行うことが必要です(同法179条2項)。
(3) 役員責任査定決定
裁判所は、審査の結果を踏まえて「役員責任査定決定」を行い、役員の任務懈怠責任の有無や金額に関する判断を示します。
当事者に送達されて以降、1か月以内に異議の訴えが提起されない場合には、役員責任査定決定は給付を命ずる確定判決と同一の効力を有します(破産法181条)。
(4) 役員責任査定決定に対する異議の訴え
役員責任査定決定に対しては、役員または破産管財人からの異議の訴えを提起することが認められています(破産法180条1項)。提訴期間は、役員責任査定決定が当事者に送達されてから1か月です。
異議の訴えでは、当事者が裁判所の公開法廷において、役員の責任の有無や金額についての主張立証を行い、裁判所が終局的な判断(認可・変更・取消し)を行います(同条4項)。
当事者は役員と、会社側は破産管財人です(同条3項)。
【役員が支払った損害賠償金は、債権者に分配される】
破産手続き内で役員の任務懈怠責任が確定した場合には、役員は会社(破産管財人)に対して損害賠償金を支払わなければなりません。
役員が支払った損害賠償金は、破産財団に組み込まれ、債権者への配当などへ回されることになります。
4.会社を破産させた役員に刑事罰が科されるか?
一般的な任務懈怠であれば、会社を破産に追い込んだとしても、取締役に刑事処分が科されることはありません。
しかし、一部の悪質な任務懈怠については、以下の犯罪が成立し、刑事罰が科されるおそれがあるので要注意です。
(1) 業務上横領罪
役員が会社のお金を着服したり、自分や友人・親族などのために消費したりした場合には、「業務上横領罪」が成立します(刑法253条)。
業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
(2) 特別背任罪
株式会社の役員が、自分または第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的で背任行為を働き、会社に損害を加えた場合には、「特別背任罪」が成立します(会社法960条1項)。
特別背任罪の法定刑は「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」、またはこれらが併科されます。
(3) 金融商品取引法違反
上場会社において、粉飾決算などにより、有価証券報告書等について虚偽記載を行った場合、金融商品取引法違反の犯罪が成立します(同法197条1項1号)。
有価証券報告書等への虚偽記載に係る法定刑は「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」、またはこれらが併科されます。
5.会社が破産した後の再度起業
破産した会社の役員だった方が、別の会社を起業して役員に就任することは、法律上何の問題もありません。
また、経営者保証によって役員個人が自己倒産に追い込まれた場合でも、別の会社を起業して役員に就任することは可能です。
したがって、法人破産を経験しても、何度でも再起を図ることはできるので、ためらわずに法人破産の可能性を検討することをお勧めいたします。
ただし、一度会社を倒産させてしまった場合、事業者としての信用が悪化し、金融機関からの融資を受けることが難しくなる可能性があります。
6.法人破産は弁護士に相談を
法人破産の手続きは煩雑であるうえ、破産に至った経緯によっては、役員個人の責任を追及されることもあり得ます。
手続きに要する労力を軽減し、役員の責任を追及されるリスクを極力回避するためにも、法人破産は弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士は、法人破産の手続きの大部分を代理するとともに、役員の任務懈怠責任等を追及されそうなケースでは、法的な観点から反論を行って依頼者をサポートいたします。
トラブルなくスムーズに法人破産を完了させるためにも、弁護士にご相談いただくのが安心です。
会社の経営がうまくいかなくなってしまった場合には、お早めに弁護士までご相談ください。