工事代金の未払いの回収方法|契約書がない場合
何らかの工事をする場合、人件費や資材費などは工事をする会社が持ち出します。
多くの工事は費用が高額になりがちなため、お客さんから工事代金を支払ってもらえないと、工事をした会社は工事費用を回収できず、大きな痛手を受けてしまいます。
しかし、正しく対応すれば、意外にあっさりと工事代金を支払ってもらえる可能性もあります。
「契約書がない」「口約束だから工事代金を回収できない」などと諦めてはいけません。
本記事では、未払いの工事代金を回収する方法を紹介します。
1.未払いの工事代金の請求方法
まず、代金を支払ってくれない相手には以下の方法で請求をしましょう。
(1) 催告
まずは電話や郵便、メールなどで催告します。
催告書には「◯月◯日までに工事代金◯◯円を支払ってください」など、期限や金額を明記しておきましょう。
遅延損害金や利息が発生する場合、その旨も記載すると、「早く払わないと損だ」と相手が思うため、支払ってもらえる可能性が上がるかもしれません。
(2) 内容証明による督促
通常の催告で効果がない場合は、内容証明を使って督促を行いましょう。
内容証明は「内容証明郵便」という特別な方法で送る書類です。内容証明郵便とは、いつ、誰が誰に対して、どのような文書を送ったかを日本郵便が証明してくれるというものです。同じ文面の文書を3通(2通はコピーで可)作成し、封をしていない封筒とともに郵便局に持参します。封筒には相手の住所(宛先)と自分の住所(差出人住所)を記しておきます。
郵便局で局員の人に3通とも渡し、内容をチェックしてもらいます。
問題がなければ1通は郵便局に保管され、1通は差出人にその場で返却され、残りの1通が相手の住所に送付されます。3者がそれぞれ同じ文面の書類を持つことになります。
内容証明郵便は手渡しで配送され、配達証明を付ければ、書類の内容だけでなく相手方に配達された事実も証明されるため、「受け取っていない」などの言い逃れができません。
内容証明の具体的な書き方はネットで検索すれば書式が見つかるのですが、できれば弁護士に依頼して送ってもらうことをおすすめします。
弁護士名義の内容証明を見た人は、焦って支払いに応じることが多く、債権者本人が送るよりも効果が期待できるからです。
(3) 法的措置
内容証明を送っても効果がない場合は、以下の法的措置を実行します。弁護士と相談して最適な方法を選んでください。
仮差押え
訴訟などに勝っても、相手に財産がなければ債権を回収できません。そのため、相手が財産を処分できないようにする処置を前もって行う必要があります。それが「仮差押え」です。
仮差押えは手続きが難しいため、弁護士に代行してもらう必要があります。
また、保証金が必要などの難点もあります。実行については弁護士と相談して決めてください。
支払督促
裁判所から債務者に支払いの督促をしてもらう制度です。
相手が異議を申し立てず、支払いもしないままであれば、債権者は最終的に「仮執行宣言付支払督促」を得ることができます。これがあれば後述する強制執行に移ることができます。
[参考記事] 支払督促とは|やり方などをわかりやすく解説少額訴訟
60万円以下の金銭の支払いを目的とした簡易な訴訟です。原則的に1回の審理で終結して判決も下るため、迅速に結論を得られます。
勝訴すれば、こちらも強制執行に必要な「仮執行宣言」が付与されます。
通常の訴訟
債権者自身が訴訟を提起したときだけでなく、支払督促や少額訴訟で相手が異議を述べた場合も通常の訴訟となります。
「裁判は手間と時間とお金がかかる」と思われがちですが、実際には和解に至ることも多く、早く解決する可能性があります。
勝訴したら確定判決、和解になったら和解調書を獲得できます。これらの書類を使えば強制執行をすることができます。
強制執行
仮執行宣言付支払督促、確定判決、和解調書等の債務名義を取得すれば、強制執行が可能になります。
強制執行は、裁判所に申立てを行い、相手の財産を強制的に差押え、債権を回収する手段です。
2.工事をした業者ができる債権回収
ここまでは一般的な債権回収方法を紹介してきましたが、工事業者には他にも工事代金を回収する方法が残されています。
(1) 特定建設業者による立替払い制度
建設業者の中には「特定建設業者」の許可を受けている会社があります。
特定建設業者が元請けであれば、特定建設業者と直接契約せずに工事をした二次請け、三次請けなどの業者が工事代金を払ってもらえない場合、特定建設業者から立替払いを受けることができます。
もし立替払いに応じてもらえない場合は、元請け責任追及のための嘆願書を、都道府県知事や国土交通省に送るという方法があります。建設業法第41条に基づき、嘆願を受けた知事や国交省が特定建設業者に指導してくれます。
指導や勧告に従わないと業務停止処分を受けることもあるため、特定建設業者が立替払いに応じてくれる可能性が高くなります。
(2) 不動産先取特権
不動産の保存、工事、売買に関する取引をした場合、その債権は「不動産先取特権」という権利の対象となります。
不動産先取特権を行使すれば、工事をした不動産を競売にかけて、そこから工事代金を回収できます。
契約書がない場合でも先取特権を使うことは可能です。
不動産工事に関する先取特権を使うには、工事を始める前に工事費用の予算額を登記しておく必要があります。
3.未払い予防のポイント
(1) しっかりした契約書を作成し保管する
やはり契約書の存在は大切です。後のトラブルを防ぐ意味でも、できれば弁護士に頼んでしっかりした契約書を作成しましょう。
見積書や請求書その他の書類も重要です。保管しておくことで裁判などに役立ちます。
(2) 前金などを払ってもらう
民法上、請負契約の場合は仕事を完了しなければ報酬を受け取れないことになっています。
しかし、工事代金の一部を先払いしてもらう内容で合意することは、法律上何ら問題ありません。
前払いと工事完了時の2回払いにする、あるいは前払い・工事中・工事完了時の3回払いにするなどの方法を考えると良いでしょう。
(3) 連帯保証人をつけてもらう
工事開始後に発注主に支払能力がなくなることもありえます。その場合でも連帯保証人がいれば、そちらに請求が可能です。
できる限り連帯保証人を立ててもらうようにしましょう。
(4) 災害などの際の取り決めを作る
民法上、工事を完成して引き渡さなければ報酬を受け取れません。しかしそれでは災害などで工事が完了しなかった場合、工事業者は一切報酬を受け取れなくなってしまいます。
災害時の責任に所在に関する内容を話し合って、契約書に盛り込んでおきましょう。建設業法19条1項7号でも、天災等に備えた規定を置くように定めています。
4.工事代金の回収に関する疑問
最後に、以下のような疑問を持つ人が多いため、まとめて解説します。
(1) 契約書がない場合でも督促できる?
法律上は口約束でした契約でも効力が生じます。そのため契約書なしで工事をした場合でも、工事代金の督促は可能です。
しかし、訴訟などになったときには、契約があったかどうかが争点になる可能性があります。契約書がないと証明に苦労するかもしれません。
契約書がない場合は、見積書や請求書、あるいは支払いを催促した各種書面で契約の存在を立証しましょう。紙媒体の証拠がない場合でもメールやショートメッセージなどの電磁的記録を駆使して立証すれば、勝訴判決を得られる可能性があります。
(2) 時効はいつ?
工事代金の消滅時効は、工事が終わってから5年です。
ただし、2020年4月1日の民法改正前は、工事の終了から3年でした。
民法改正前に完了した工事については、改正前の法律が適用されます。つまり2020年3月31日以前の工事については、3年で工事代金がもらえなくなってしまいます。
消滅時効は内容証明郵便での督促や支払督促、訴訟の提起によって引き延ばすことができます。弁護士に相談して、すぐにでも対処してもらいましょう。
(3) 刑事告訴は可能?
工事代金の未払いは民事事件なので、刑事告訴をすることは基本的にできません。警察に通報しても「当事者で話し合ってください」と言われて終わる可能性が高いです。
工事の発注時に相手に支払う意思がなく、「後で払うから」と工事業者を騙して工事をさせた場合などは、詐欺罪が成立する可能性があります。しかし詐欺罪は立証が難しいため、警察に通報してもなかなか動いてくれません。
5.未払いの工事代金を回収するには弁護士に相談を!
工事代金の未払いに関するトラブルは意外に多いようです。まずは契約書を交わす、連帯保証人をつけてもらうなどで未払いへの対策を行ってください。
万が一未払いが発生し、再三の督促にも応じてくれない場合は、弁護士にご相談ください。内容証明で弁護士の名前を出すだけでも効果がありますし、訴訟や強制執行などの手続も代行してもらえます。
工事代金の未払いでお困りの方は、泉総合法律事務所にお気軽にご相談ください。