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債権回収の重要知識

債務名義に消滅時効はある?

債務名義を取得しても、それから時間が経ってしまうと、債権が時効により消滅してしまうおそれがあります。

そのため、債務名義を取得したら速やかに強制執行の手続きに移行しましょう。

強制執行の手続きをとる前提として、債務者の財産を特定するのが難しければ、民事執行法上の財産開示手続等を利用することも考えられます。
財産開示手続等の利用方法が分からない場合は、適宜弁護士にご相談ください。

この記事では、債務名義の消滅時効と、早期の強制執行に役立つ財産開示手続等について解説します。

1.債務名義が消滅時効にかかるのはいつ?

債務名義を取得しても、一定期間の経過によって時効消滅してしまいます。

債務名義の消滅時効に関する正しい知識を備えたうえで、時効消滅の前に確実に強制執行等による回収を図りましょう。

(1) 債務名義の種類

債務名義とは、強制執行の申立てに用いることができる公文書をいいます(民事執行法22条)。

債務名義に当たる書類は、以下のとおりです。

①確定判決
②仮執行宣言付判決
③抗告によらなければ不服申し立てができない裁判(仮差押命令・仮処分命令など)
④仮執行宣言付損害賠償命令
⑤仮執行宣言付届出債権支払命令
⑥仮執行宣言付支払督促
⑦訴訟費用等の金額を定める裁判所書記官の処分
⑧執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)
⑨確定した執行判決のある外国裁判所の判決
⑩確定した執行決定のある仲裁判断
⑪確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書・調停調書・労働審判など)

各債務名義の詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。

[参考記事] 債務名義とは|取得方法・時効など

(2) 債務名義の消滅時効期間

債務名義の消滅時効期間は、その種類によって異なります。

確定判決、または確定判決と同一の効力を有する債務名義によって確定した債権については、消滅時効期間は確定日の翌日から起算して10年です(民法169条1項)。

<消滅時効期間が10年となる債務名義>
①確定判決
④仮執行宣言付損害賠償命令(異議申立期間が経過した場合)
⑤仮執行宣言付届出債権支払命令(異議申立期間が経過した場合)
⑥仮執行宣言付支払督促(異議申立期間が経過した場合)
⑦訴訟費用等の金額を定める裁判所書記官の処分
⑨確定した執行判決のある外国裁判所の判決
⑩確定した執行決定のある仲裁判断
⑪確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書・調停調書・労働審判など)

上記以外の債務名義については、権利の確定を経ていないため、通常の債権の消滅時効期間が適用されます。

<通常の消滅時効期間が適用される債務名義>
②仮執行宣言付判決
③抗告によらなければ不服申し立てができない裁判(仮差押命令・仮処分命令など)
⑧執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)

具体的には、以下のいずれかの期間が経過したことをもって、消滅時効が完成します。

  • 権利を行使できることを知った時から5年
  • 権利を行使できる時から10年
[参考記事] 債権回収の消滅時効は?時効期間・完成阻止の方法

2.債務名義の消滅時効の完成を阻止する方法

消滅時効が完成すると、債務者によって時効が援用された場合、債権を回収できなくなってしまいます。
債権者としては、そうなる前に消滅時効の完成を阻止しなければなりません。

消滅時効の完成を阻止する方法には、「完成猶予」と「更新」の2つがあります。

(1) 消滅時効の完成を猶予する方法

時効の「完成猶予」とは、消滅時効の完成を一時的に猶予することを意味します。

時効の完成猶予の効果を生じさせる債権者の行為は、以下のとおりです。

<時効の完成猶予>

①以下のいずれかを行うこと(民法147条1項)
・裁判上の請求
・支払督促
・和解
・調停
・倒産手続参加

②以下のいずれかの手続きが開始したこと(民法148条1項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続

③仮差押え、仮処分(民法149条)

④履行の催告(民法150条1項)

⑤協議の合意(民法151条1項)

上記の中では、内容証明郵便による「履行の催告」が、もっともお手軽な方法となります。

ただし、債務名義をすでに持っている状態であれば、強制執行を申し立てる方法が近道でしょう。

(2) 消滅時効を更新する方法

消滅時効の「更新」とは、時効期間をリセットして、ゼロからカウントし直すことを意味します。

時効の更新の効果を生じさせる債権者の行為は、以下のとおりです。

<時効の更新>

①以下のいずれかを行った後、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したこと(民法147条2項)
・裁判上の請求
・支払督促
・和解
・調停
・倒産手続参加

②以下のいずれかの手続きが終了したこと(民法148条2項。ただし、途中で取下げまたは取消しにより手続きが終了した場合を除く)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続

③権利の承認(民法152条1項)

なお、たとえば判決の確定によって取得した債務名義の効力を、時効の更新によって延ばすため、再度訴訟を提起することも認められます。

消滅時効により債務名義が失効してしまう前に、上記のいずれかの方法により消滅時効の完成を阻止しましょう。

3.財産開示手続・第三者からの情報取得手続を利用

債務名義を用いて強制執行を申し立てるに当たっては、差し押さえるべき債務者の財産を特定しなければなりません。
しかし、債権者が債務者の財産を把握する方法は少なく、財産の特定が難しいケースも多いです。

その場合には、民事執行法に基づく「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」を利用しましょう。

(1) 財産開示手続・第三者からの情報取得手続とは?

これらはいずれも、債権者が強制執行を申し立てるに当たって、債務者の財産を特定するための情報を取得するための手続きです。

①財産開示手続
債務者本人に対して、財産開示期日において、所有する財産についての陳述を義務付ける手続きです。

②第三者からの情報取得手続
裁判所が、法務局の登記所・公的機関・銀行などの金融機関に対して、債務者の有する不動産・給与債権・預貯金債権に関する情報開示を命ずる手続きです。

従来の民事執行法では、財産開示手続のみが設けられていましたが、債務者が陳述を拒否したり、嘘の陳述をしたりした場合には、債務者財産の特定に繋がりにくいという問題点がありました。

[参考記事] 財産開示手続とは|流れは?無視された場合はどうする?

そこで、2020年4月1日に施行された改正民事執行法において、新たに第三者からの情報取得手続が設けられました。

[参考記事] 民事執行法とは?改正後の第三者からの情報取得手続を解説

第三者からの情報取得手続の新設により、債権者は、債務者財産の特定に繋がる有益な情報を取得する手がかりを得たことになります。

債務者財産の特定が難しいために、強制執行の手続きを申し立てられない状態にある方は、財産開示手続・第三者からの情報取得手続の利用をご検討ください。

(2) 法改正以前に取得した債務名義も利用可能

財産開示手続・第三者からの情報取得手続は、執行力のある債務名義を有する債権者が申し立てられます。

このときの債務名義は、民事執行法改正以前に取得したものでも構いません。
財産開示手続・第三者からの情報取得手続を適切に利用して強制執行を申し立て、債権の消滅時効の完成を阻止しましょう。

4.債権回収は弁護士に相談を

債務者が任意に支払いを行わない場合、内容証明郵便の送付や、支払督促・訴訟・強制執行などの法的手段を用いて債権回収を行う必要があります。
しかし、これらの作業は非常に煩雑であり、債権者自身で対応するのは大変です。

弁護士にご相談いただければ、債権回収に必要な手続きの大部分を代行いたしますので、債権者ご本人のご負担は大きく軽減されます。

迅速・円滑な債権回収を実現するため、法的な観点からサポートいたしますので、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。

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