強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど
支払を約束する公正証書や、支払を命ずる裁判所の判決があるのに、金銭の支払い義務を果たしてくれない債務者は存在します。
そういった債務者から金銭債権を回収する最終手段が「強制執行」です。
本記事では、強制執行の種類や手続きの流れ、費用などについて解説します。
1.強制執行の種類
強制執行は、私人の権利(請求権)を実現するための法制度であり、実現するべき請求権が金銭債権か否かによって、「金銭執行」と「非金銭執行」に大別されます。
(1) 金銭執行とは
金銭債権の実現を目的とした強制執行です。
例えば、以下の債権を実現する目的で行われる強制執行は、金銭執行に該当します。
- 貸したお金を返して欲しい(貸金債権の実現)
- 売った商品のお金を支払って欲しい(売買代金債権の実現)
- 滞納中の家賃を支払って欲しい(賃料債権の実現)
金銭執行は、おおまかに①財産の差押え(まず債務者による処分を禁止すること)、②換価(売却して金銭に換えること)、③債権者の満足(金銭を配当すること)という流れをたどります。
この差押え、換価される財産(執行対象財産)によって更に以下のように分類されます。
不動産執行
不動産を差し押さえて競売し、売却代金から債権を回収するものです。
動産などに比べれば、住居・店舗・工場など債務者が所有する不動産の所在は判明しやすく、また不動産の権利関係に関する登記情報は誰でも法務局で調査できるため、資産調査の労力という面だけを考えれば、他の財産よりも差押えしやすく、しかも通常は高額なので多くの債権を回収できると債権者は期待します。
しかし、競売には時間がかかり、手続きにかかる費用が高額なだけでなく、不動産は当該物件の担保価値の上限に至るまで他の債権者の担保(多くは抵当権)に供されているのが通常であり、無担保の債権者が不動産執行によって金銭債権を回収できるケースはあまりありません。
[参考記事] 強制競売の基本と流れ動産執行
動産を差押えして競売にかけ、売却代金から債権を回収します。
仮に債務者が高額な動産を所有していたとしても、債権者が、その存在を知ることは困難です。住居内に置かれているような発見が容易な動産は換金する価値がないことが通常で、そもそも日常生活に必要な動産は差押さえることが禁止されています。このため通常は動産執行によって金銭債権を回収することは期待できません。
動産執行のほとんどは、その手続自体によって債権を回収することを目的とするのではなく、執行官が債務者の住居などにおもむき、強制執行手続に着手することによって、債務者に心理的なプレッシャーを与えて、任意の支払を促すことに狙いがあります。
[参考記事] 動産執行とは?|費用や流れ債権及びその他財産権に対する執行(債権執行)
債務者が他人(第三者)に対して持つ債権(売掛金債権や預金債権)などを差押えます。
この場合の他人(第三者)は、債権者から見て「第三債務者」と言います。
債権の差押えがなされると、債務者は第三債務者に対する取り立てや債権を処分することは禁止されます。
第三債務者も債務者に対する弁済は禁止され、仮に債務者に弁済をしても、債権者には債務の消滅を主張できず、二重弁済を余儀なくされる危険を負います。
こうして、第三債務者に対する債権を、いわば凍結しておいた後、その債権から自分の債権の回収を図ることができます。
その方法としては、①債権者自らが取り立てる方法、②裁判所から転付命令を得る方法(命令により、債務者に代わって、自分が第三債務者の債権者となる)などがあります。
債権執行でもっとも利用されているのは、債務者の預貯金債権の差押えです。
債務者の銀行口座を差し押さえれば、債務者が当該銀行から融資を受けていない限りは、口座残高から取り立てできます。
(2) 非金銭執行
金銭債権以外の債権の実現を目的とする強制執行のことを「非金銭執行」と呼びます。
債権回収を目的にする場合は前述の金銭執行となるため、ここでの詳細の説明は割愛しますが、例えば「不法占拠者を建物から追い出す」「代金支払い済みの品物を引き渡せ」「土地の所有権移転登記手続をしろ」などの目的で行われる強制執行が非金銭執行に当たります。
2.強制執行の流れ
ここからは、債権の回収を目的にした金銭執行を念頭に、強制執行の手続きがどういった流れで行われるのかを解説します。
(1) 債務名義の取得
強制執行の申立てには「債務名義」というものが必要です。
強制執行は債権者の請求権を実現するための制度であり、債権者の利益のために、できるだけ簡易・迅速に手続が進むことが要請されます。
もしも、手続を進める執行機関が、いちいち債権者の請求権が真実正しいものか否かを実質的に審査・判定しなくてはならないとするならば、簡易・迅速に手続を進めることは困難となります。
そこで民事執行制度では、債権者の請求権の有無・内容を決める機関(例えば、裁判所)と、執行手続を行う機関(執行裁判所と執行官)を分離して、別々の機関に担当させることにしました
前者が決めた請求権の内容は、法定の文書に表示され、これを「債務名義」と呼びます。後者の執行機関は、この「債務名義」の内容を形式的に審査するだけで手続を進めてかまわないとされます。
このようにして、執行段階での手続の簡易・迅速を確保しようとしているのです。
債務名義は、いわば強制執行を行うための「お墨付き」と言うわけであり、重要な役割を持ちますから、債務名義の種類は厳格に法定されています。
代表例としては、「裁判の確定判決」「強制執行認諾条項付公正証書」「支払督促を経て得た仮執行宣言付支払督促」などです。
債務名義の詳細は、以下のコラムをご覧ください。
[参考記事] 債務名義とは|取得方法・時効など(2) 執行文の付与
実は債務名義だけでは強制執行を開始してもらうことはできません。債務名義に対し、さらに「執行文」というものを付与してもらう必要があります。
例えば、裁判所の判決書は債務名義のひとつですが、「被告は原告に対し、金100万円を支払え」と記載された判決文があったとしても、実は判決後に被告が控訴したため、その判決はまだ確定していないかも知れません。
また、公証人の作成する強制執行認諾文付き公正証書も債務名義のひとつですが、「AがBに商品××を引き渡したときは、BはAに金100万円を支払う」との条項が記載されていた場合、この公正証書それ自体からは、Bに商品××を引き渡すというAの先履行義務が果たされたかどうか不明です。
しかし、このような場合に、判決の確定の有無や、Aの先履行の事実を、いちいち執行機関が調査して判断しなくてはならないとすると、簡易・迅速な手続を確保できません。
そこで、このような事実は、執行機関とは別の機関に確認・判断させ、その判断を債務名義の末尾に付記させることにしました。この付記された記載が「執行文」です。
執行機関は債務名義に執行文が付記されていることを確認すれば、執行手続を進めることができるわけです。執行文は、いわば債務名義という「お墨付き」を、さらに補充する文章と言えましょう。
執行文を付与する機関は、債務名義が判決の場合は裁判所書記官、公正証書の場合は公証人です。
債務名義を取得した裁判所または公正証書を作成した公証人に申立てを行い、債務名義に執行文を付与してもらってください。
裁判所に申立てをする場合、必要書類は基本的に2つです。
- 執行文付与申請書
- 債務名義の正本
執行文付与申請書の書式や記載例は裁判所のサイトにあります。
(3) 債務名義の送達証明申請
強制執行開始の要件として、強制執行の「前」又は執行と「同時」に、債務名義の正本または謄本を債務者に送達しなければなりません。債務者側に法的に異議を主張する機会を与えるためです。
債権執行の場合、裁判所による債権差押え命令の発令がなされるので、発令時点で送達済みである必要があります。そこで、債務名義が送達済みであることを証明する「送達証明書」を取得して、申立の際に提出する必要があります。
判決、和解調書や認諾調書、支払督促で債務名義を得た場合などは、裁判所から謄本が送達されています。債務名義を取得した裁判所に申立てをして、送達証明書を発行してもらってください。
債権執行の債務名義が公正証書の場合は、公証人に送達を依頼することになります。ただし、債務名義となる公正証書の作成時に、債務者の代理人ではなく、債務者本人が公証役場に出頭していれば、公証人から債務者へ謄本が手渡しされています。これを交付送達と呼びます。
これによって送達が行われたことになりますので、重ねて別途の送達は不要です(民事執行規則第20条2項)。いずれの場合も、公証人に「送達証明書」を発行してもらってください。
ただし、公正証書を債務名義とする「動産執行」の場合は、執行官が債務名義を持参して、現場で債務者に交付することで送達することも可能です。これを「同時送達」と呼び、事前に知らせないことにより債務者による財産隠しを防止する目的で、この方法が選択されます。
この場合、事前の送達や送達証明書は不要です(民事執行規則第20条3項)。
送達証明申請書の書式と記載例も裁判所のサイトにあります。
(4) 債権執行の流れ
債権執行の場合は以下の流れで手続きが進みます。
①債権差押命令申立て
債務者の住所地を管轄する裁判所に申立てを行います。基本的に以下の書類が必要です。
- 申立書
- 当事者目緑(債権者、債務者、第三債務者の名称や住所等を記載)
- 請求債権目録(債権者が債務者に対して持つ債権の一覧)
- 差押債権目録(差押えをする債権)
- 執行文付きの債務名義
- 送達証明書
- 法人の資格証明書
これらの必要書類の書式も裁判所のサイトにあります。
②債権差押命令
申立てが受理されると、裁判所が債務者と第三債務者へ債権差押命令を発送します。
命令を受けた第三債務者は、債務者への弁済を禁じられます。
③取り立て
債権差押命令が第三債務者に送達されてから1週間(ただし、給与債権などの差押禁止債権の場合は4週間)を経過した後は、債権者が債務者に代わって第三債務者に直接取り立てを行えるようになります。
ただし、第三債務者が任意に支払わない場合は、別途、第三債務者を相手に取立訴訟を起こす必要があります。
(5) 不動産執行の流れ
不動産執行は以下の流れで行います
①不動産強制競売申立
差押えをする不動産を管轄する地方裁判所へ申請します。以下の書類が必要です。
- 不動産強制競売申立書
- 当事者目録、請求債権目録
- 執行文付き債務名義
- 送達証明書
- 法人の資格証明書
- 物件目録(差押対象の物件の情報)
書式は裁判所のサイトを参考にしてください。
②申立て後
申立てが受理された後は、基本的に債権者からアクションを起こすことはありません。
裁判所が不動産の調査をして、売却基準価格を算出します。その後、裁判所から競売期日が指定されます。
落札後、債権者へ買受代金から配当が行われます。
(6) 動産執行の流れ
動産の所在地を管轄する地方裁判所に所属する執行官へ申立てをして行います。
流れは以下の通りです。
①申立て
以下の書類が必要です。
- 申立書
- 執行文付き債務名義
- 当事者目録、請求債権目録
- 送達証明書(同時送達の場合は不要)
- 法人の資格証明書
裁判所サイトの書式を参考にしてください(「動産に対する強制執行」の欄)。
②差押えに立ち会い
執行官が債務者の動産がある場所へ行って差押えを行います。
現金が差押えられた場合、立ち会っていれば現地で受け取ることができます。
なお、弁護士がいれば、代わりに立ち会ってもらえます。
③競売と配当
差押えされた物が現金以外の場合、競売を経て現金化されます。
その後、債権者へ配当が行われます。
3.強制執行に必要な費用
強制執行には費用がかかります。
負担額が大きなものもあるので、費用倒れが不安な方は予めご確認ください(以下は東京地裁の場合です)。
(1) 共通の費用
裁判所で行う場合 | 公正証書の場合 | |
---|---|---|
債務名義の執行文の付与の手数料 | 300円 | 1,700円 |
送達証明書の手数料 | 150円 | 1,650円 |
(2) 債権執行
- 申立手数料:4,000円(債権者、債務者、債務名義が単数の場合)
- 郵券切手代:約3,500円以上
(3) 不動産執行
- 収入印紙代:4,000円
- 差押え登記の登録免許税:確定請求債権額の4/1000
- 郵券切手代:84円切手+10円切手
- 予納金:下表を参照
請求債権額 | 予納金 |
---|---|
2,000万円未満 | 80万円 (令和2年3月31日以前に受理された申立ては60万円) |
2,000万円以上5,000万円未満 | 100万円 |
5,000万円以上1億円未満 | 150万円 |
1億円以上 | 200万円 |
(4) 動産執行
- 収入印紙代:4,000円
- 予納金:3万5000円以上(差押え対象の動産の種類や数による)
4.強制執行は弁護士に依頼すべき
強制執行の手続には、民法・民事訴訟法・民事執行法といった法律の知識はもちろん、これら法律には記載されていない実務慣行の知識も必要であり、専門家でない一般の方だけで手続を実行することは現実的には不可能ですから、弁護士に依頼することが必須です。
泉総合法律事務所には、強制執行を含めた債権回収に関する知識が豊富にあります。債権回収はぜひ当事務所までご連絡ください。