動産執行とは?|費用や流れ
債務者からの支払いが長期で滞った際、債権回収の最終手段として「強制執行」を行うことがあります。
強制執行の代表的なものは銀行口座の預金や給料の差し押さえ(債権執行)ですが、「動産」を差し押さえることも可能です。
これを、「動産執行(動産の差し押さえ)」と言います。
債権執行や不動産執行などではなく、動産執行を行うメリットとは何なのでしょうか。また、動産執行を採るべきケースはどのような場合なのでしょうか。
この記事では、動産執行について詳しく解説します。
1.動産執行の役割・効果
動産執行は、債務者が任意に支払いを行わない場合に採ることの出来る強制執行方法の1つで、いわゆる動産の差し押さえです。
動産執行では、価値のある家財道具(生活必需品ではないもの)・現金・絵画・株券などが差し押さえの対象となります。
執行官が債務者の家や会社(差し押さえ対象となる動産の所在地)に赴き、直接差し押さえを行なう点が特徴です。
執行官により差し押さえられた動産は、原則持ち帰り保管された後、1ヶ月以内に売却期日が決定され、最終的に動産を売却したお金で債権者は債権回収を行います。
預金や給与を差し押さえる方が債権回収に関して確実に感じられますが、口座にお金がない場合などは口座を差し押さえても意味がありません。
不動産などの回収可能性の高いものを債務者が有していない場合は、動産執行も検討の対象となります。
債務者の財産に預金、動産、不動産などが複数ある場合、どれを差押対象とするかどうかについて優先順位はなく、債権者の自由です。
動産執行で債権が回収出来るメリットが大きいならば、動産執行を選択する余地はあるでしょう。
また、自宅や会社に裁判所の執行官が何度もやってくるという状況は、債務者にとっては避けたいことです。動産執行という行為そのものが嫌がらせともとれるため、債務者に任意の支払いを促すために動産執行が採用されるケースもあります。
2.動産執行で差し押さえられるもの
動産執行では、以下のようなものが差し押さえの対象となります。
- 価値のある家財道具(生活上最低限必要な家財道具は差押禁止)
- 現金(66万円までの現金は差押禁止)
- 絵画・骨董品
- 時計・宝石類
- 株券
- 機械・什器など
この他にも、例えばパソコンやテレビなどは、高価なものだと差し押さえできる可能性があります。
しかし、これが仕事で利用しているなど、生活上必要なものと認められれば差し押さえを免れるでしょう。
ただし、例えば同じ家財を複数所有している場合は、1つを除いて差し押さえできる可能性が高いです。
また、差し押さえられるのは債務者名義の動産に限ります。債務者の家族が所有しているものについては差し押さえされません。
3.動産執行の流れ
次に、動産執行の流れをご説明します。
(1) 債務名義を得る
動産執行に限らず、支払いが滞納したからといっていきなり強制執行(差し押さえ)が行えるわけではありません。
強制執行は、原則として裁判所から支払いを命じる判決が出て、それでも支払をしない場合に採れる最終手段といえます。
もっとも、どんなケースでも裁判が必要というわけではなく、法律上、「債務名義(強制執行の根拠となる文書)」があれば強制執行は可能となります。
例えば、「強制執行認諾文言付きの公正証書」を持っている場合には、裁判なしで(予め判決等を取得せずとも)、直接その公正証書に基づいて動産執行を行なうことが出来ます。
[参考記事] 債務名義とは|取得方法・時効など主に以下のようなケースで、強制執行としての動産執行が行えます(なお、債務名義の正本の他に、送達証明書も必要です)。
- 訴訟で支払いを命じる判決が出たにも関わらず、債務者が支払いを怠った場合
- 仮執行宣言付支払督促を得た場合
- 強制執行認諾文言付きの公正証書がある場合
- 訴訟で債務者が支払う旨の和解をしたのにも関わらず、期日までの支払いを債務者が怠った場合
(2) 動産執行の申立書を提出
動産執行をする場合は、「動産執行申立書」を裁判所の執行官(強制執行を担当する職員)に提出します。
申立の提出先は、差し押さえ対象となる動産の所在地を管轄する地方裁判所の所属する執行官室です。
動産執行の申立は、裁判所に対してではなく執行官に対して行うものなので、法律的な意味では「管轄裁判所」というものはありません。
【参考】裁判所HP 書式一覧マップ(執行官室|動産に対する強制執行)
(3) 日時調整、訪問
動産執行は執行官が行うため、債権者(もしくは代理人弁護士)と執行官との間で執行日時を調整します。
その後、動産執行の予定日に、債権者は執行官と共に対象となる動産の所在地(=債務者の自宅や会社など)に赴きます。
なお、あらかじめ債務者に執行日時が通知されることがありません。知らせることで価値ある動産を隠匿されてしまうおそれがあるためです。
よって、債務者からしたら、「ある日突然自宅や会社に執行官が来る」という状況になります。
【債務者が不在の場合】
なお、債務者が差し押さえを拒否するケースや債務者が不在のケースもありますが、この場合は強制解錠(鍵屋により鍵が開けられるなど)が行なわれます。鍵屋は執行官が手配してくれることが多いですが、日当の支払いは債権者がする必要がありますので、あらかじめ準備しておきましょう。
ただし、鍵屋が解錠してくれても、中への立ち入りは原則として執行官しか出来ません。債権者や代理人弁護士が中へ立ち入るには債務者本人の任意の許可が必要です。
債務者から中への立ち入りを拒否された場合、債権者及び代理人弁護士は、執行官から中の状況を伝え聞いた上で、どれを差し押さえ対象とするかを判断することになります。
また、現場では、執行官が債務者を外に連れてきて、外で待っている債権者と直接話し合わせるケースも多いです。債務者に支払いを強く督促できる機会となります。
(4) 差し押さえと売却
執行官は、現金やその他に価値がありそうな動産があれば差し押さえます。
(これらは債務者が勝手に処分しないように原則として持ち帰り保管しますが、現金以外の重量物を差し押さえる予定がある時は、搬送用の車やトラックを事前に用意しておきましょう。)
執行官は、差し押さえから1ヶ月以内に売却期日を決定し、動産を売却したお金で債権者は債権回収を行ないます。
動産の売却方法としては、売却期日に専門業者を連れてきて買い取ってもらう方法の他に、債権者自身が購入して、購入代金と債権を相殺処理する(購入した動産は別途転売して換金する)方法もあります。
この売却期日は、債務者にも事前に通知がされます。
どうしても差し押さえ対象の動産を手元に残したい債務者は、自ら競り落とすか、あるいは、友好的な第三者(購入後も債務者による使用を認めてくれる第三者)に競り落として貰うことを目指して、売却期日までの準備をすることになるでしょう。
4.動産執行の費用
動産執行をする際には、裁判所に予納金(執行官の費用)を支払う必要があります。
支払いのタイミングとしては、動産執行の申立書を提出する際に預けることになります。
これは、一般的に3~5万円程度となり、動産執行が終了後に余りがあれば返還されます。
また、鍵屋(開錠業者)を手配した際の日当(謝礼)が必要(実際に作業を要したかどうかで変動)となる他、トラックなどを借りたり搬送業者を依頼したりした場合はその費用もかかるでしょう。
更に、弁護士に依頼をした場合は別途弁護士費用がかかりますが、これは依頼先の弁護士事務所により異なるため、実際に弁護士へ確認していただくことをお勧めします。
なお、泉総合法律事務所の動産執行の弁護士費用は以下の通りです。
【訴訟段階からご依頼があり、続けて強制執行をご依頼の場合】
・着手金:執行場所ごとに11万円(税込)
※訴訟の着手金とは別に頂戴いたします。
・成功報酬:訴訟段階から受任している場合、強制執行の成功報酬については、特別な事情がある場合を除き、頂戴しません。【強制執行のみご依頼の場合】
着手金:執行場所ごとに11万円(税込)
成功報酬:
経済的利益の額 成功報酬 300万円以下の部分 経済的利益の17.05%(税込) 300万円を超え、3,000万円以下の部分 経済的利益の10.45%(税込) 3,000万円を超え、3億円以下の部分 経済的利益の6.05%(税込) 3億円を超える部分 経済的利益の3.85%(税込) ※日当は5.5万円(税込)/1回とし、遠方は応相談とします。
※実費はご負担いただきます。
5.動産執行も弁護士へ相談を
動産執行は、債権執行や不動産執行に比べて、功を奏さないことも少なくありません。
しかし、債務者が普段使っているものを差し押さえたり、実際に執行官が現場に赴いたりすることで、心理的なプレッシャーを与えて任意の交渉・弁済等に繋がることがあります。
預金や不動産がない債務者の場合にも、一定の効果を得られる可能性はあるでしょう。
動産執行をはじめとした強制執行による債権回収をお考えの方は、泉総合法律事務所にぜひご相談ください。
債権回収方法を検討し、問題の解決まで全力でサポートさせていただきます。