有限会社を廃業するには?解散・清算・法人破産の手続きや費用
「有限会社」とは、2006年4月30日の会社法施行以前に設立が認められていた会社形態です。
現在も「有限会社」の商号を持つ会社は存在しますが、法的には「株式会社」という整理になっています。
ただし、会社法施行以前から存在する有限会社については、「特例有限会社」として、通常の株式会社とは一部異なる規制が適用されています。
さて、有限会社を廃業するには、会社法や破産法に則った煩雑な手続きが必要になります。ご自身で対応するのが難しければ、お早めに弁護士までご相談ください。
この記事では、有限会社を廃業するための手続きについて詳しく解説します。
1.有限会社が廃業する方法
有限会社は、法的には株式会社なので、通常の株式会社と同様の方法で廃業することになります。
主な廃業の方法は、「解散・清算」と「法人破産」の2つです。
①解散・清算
株主総会が自主的に解散を決議し、有限会社を清算する廃業の方法です(会社法471条以下)。②法人破産
有限会社が支払不能または債務超過に陥っている場合、法人破産を申し立てることができます(破産法15条1項、16条1項)。
法人破産をすると、会社財産を換価・処分し、債権者への配当が行われた後に、有限会社は消滅します。
有限会社の財務状況に問題がない場合は「解散・清算」、財務状況が悪化している場合には「法人破産」を選択すると良いでしょう。
2.有限会社の解散・清算手続きの流れ
有限会社を自主的に解散・清算する場合、大まかな手続きの流れは以下のとおりです。
(1) 株主総会による解散決議・清算人の選任
まずは、株主総会による解散の特別決議を行う必要があります(会社法471条3号、309条2項11号)。
<特別決議の要件>
①行使可能議決権の過半数を有する株主の出席(定款で3分の1以上まで緩和可)
②出席株主が有する議決権の3分の2以上の賛成(定款で加重可)
また、解散決議と併せて、清算事務を担当する「清算人」も選任しておきます。
原則として取締役が清算人となりますが、定款で別途の規定を置いたり、株主総会特別決議によって別の者を選任したりすることも可能です(同法478条1項)。
(2) 解散・清算人の登記
有限会社が解散した場合、解散の日から2週間以内に、本店所在地において解散の登記をしなければなりません(会社法926条)
また、清算人が選任された場合にも、同じく解散の日から2週間以内に、本店所在地において清算人の氏名等を登記する必要があります(会社法928条1項)。
登録免許税は以下のとおりです。
- 解散の登記:3万円
- 清算人選任の登記:9000円
(3) 税務署等への解散の届出・確定申告(1回目)
有限会社の解散後速やかに、以下の窓口に解散の旨を届け出る必要があります。
- 所轄税務署
- 都道府県税事務所
- 市区町村
届出の書式などは、各機関のホームページや窓口などでご確認ください。
さらに、事業年度の開始日から解散の日までを1つの事業年度とみなして、有限会社の確定申告を行うことも必要になります。
確定申告書の提出期限は、解散日の翌日から2か月以内です。
(4) 清算人による財産調査・財産目録等の作成
清算人は、就任後遅滞なく、清算株式会社(有限会社)の財産の現況を調査したうえで、解散日時点での財産目録および貸借対照表を作成しなければなりません(会社法492条1項)。
財産目録・貸借対照表の作成が完了したら、それを株主総会に提出・提供して、承認を受ける必要があります(同条3項)。
(5) 債権者に対する債権申出の公告・催告、債務の弁済
清算株式会社(有限会社)は原則として、株主に残余財産を分配する前に、債権者に対して債務を弁済しなければなりません(会社法502条)。
その前提として、債権者に対して債権申出を求める官報公告を行い、かつ知れている債権者に対しては、各別に債権申出を催告する必要があります(会社法499条1項)。
債権申出期間は2か月以上に設定され、この期間内に申出がなかった債権については、清算手続きの中で弁済を受けることができません(同条2項、503条1項)。
債権申出期間内に申出があった債務については、順次弁済を行います。
(6) 残余財産の分配
債務の弁済後、残った会社財産がある場合には、清算人の決定に従い、株主に対して残余財産を分配します(会社法504条)。
残余財産の分配の方法は、株主平等原則に従い、株式の内容および数に応じて平等に行わなければなりません(同法109条1項)。
(7) 決算報告の作成
残余財産の分配が完了したら、清算人は決算報告を作成します(会社法507条1項)。
決算報告は、株主総会に提出または提供し、その承認を受けなければなりません(同条3項)。
(8) 清算結了登記・税務署への届出
決算報告が株主総会により承認された日から2週間以内に、本店所在地において、清算結了登記を行う必要があります(会社法929条)。
清算結了登記の登録免許税は2,000円です。
また、清算結了後速やかに、以下の窓口に清算結了の旨を届け出ることが必要です。
- 所轄税務署
- 都道府県税事務所
- 市区町村
(9) 確定申告(2回目)
残余財産が確定した場合、確定日の属する課税期間の終了日の翌日から1か月以内に、最終事業年度に係る確定申告書を税務署に提出しなければなりません。
なお、残余財産が確定するまでに1年以上を要した場合は、その間、解散の日の翌日から1年ごとに確定申告が必要となります。
(10) 帳簿書類の保存
清算株式会社(有限会社)の帳簿資料は、清算結了登記の時から10年間保存する必要があります(会社法508条1項)。
3.有限会社の法人破産の流れ
有限会社の財務状況が悪化しており、債務を支払いきれない場合には、廃業は法人破産の手続きを通じて行います。
法人破産の大まかな流れは、以下のとおりです。
(1) 破産手続開始の申立て
まずは、有限会社の主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に対して、破産手続開始の申立てを行います(破産法15条1項)。
<破産手続き開始申立ての主な必要書類>
- 破産手続開始申立書
- 貸借対照表、損益計算書(直近2期分)
- 商業登記簿謄本
- 債権者一覧表
- 債務者一覧表
- 資産目録
- 代表者の陳述書、報告書
- 破産申立てについての取締役会議事録または取締役の同意書
- 不動産登記簿謄本(不動産がある場合)
- その他資産に関する資料
- 委任状(代理人申立ての場合) など
(2) 破産手続開始の決定・破産管財人の選任
有限会社が支払不能または債務超過の状態にあり、予納金の納付などその他の要件を満たしている場合には、裁判所は破産手続開始の決定を行います(破産法30条1項)。
破産手続開始の決定と同時に、裁判所は法人破産の事務を行う「破産管財人」を選任します。その後、有限会社の代表者・代理人・破産管財人の間で、法人破産の進め方などについての打ち合わせが行われます。
(3) 会社財産の換価・処分
破産管財人は、会社財産を換価・処分して現金化したうえで、債権者への配当原資を確保します。
破産管財人には、破産財団に属する財産の管理処分権限が与えられているため(破産法78条1項)、換価・処分の方法は破産管財人の裁量で決定されます。
破産財団の換価・処分の状況については、債権者集会において、破産管財人が債権者に対する報告を行います。
(4) 債権者に対する配当
破産財団の換価・処分が完了した後、破産管財人は債権者に対して配当を行います。
手続き外で弁済される別除権付きの債権(破産法65条1項)や財団債権(同法148条以下)を除くと、配当は以下の優先順位に沿って行われます。
- 優先的破産債権(同法98条)
- (通常の)破産債権(同法97条等)
- 劣後的破産債権(同法99条1項)
- 約定劣後破産債権(同条2項)
同順位の破産債権については、按分比例による配当が行われます。
(5) 破産手続終結の決定(または廃止の決定)
債権者への配当が終了した後、裁判所は破産手続終結の決定を行います(破産法220条1項)。
一方、配当に至らない段階で破産手続きの費用が不足するに至った場合には、裁判所は破産手続廃止の決定を行います(同法217条1項)。
(6) 法人格の消滅
破産手続きが終結または廃止によって終了した後、裁判所が法務局の登記所に嘱託し、破産手続終結または廃止の登記を行います(破産法257条7項、1項)。登記完了をもって、有限会社の法人格は消滅します。
4.破産手続きにかかる費用
有限会社について法人破産を申し立てるために必要な費用は、主に「裁判所への予納金等」と「弁護士費用」の2つに分かれます。
(1) 裁判所への予納金等
破産手続きを申し立てる際には、裁判所に予納金を納付しなければなりません(破産法30条1項1号)。
予納金額は裁判所によって異なりますが、東京地裁では以下の金額が設定されています。
負債総額 | 予納金の金額 |
---|---|
5,000万円未満 | 70万円 |
5,000万円以上1億円未満 | 100万円 |
1億円以上5億円未満 | 200万円 |
5億円以上10億円未満 | 300万円 |
10億円以上50億円未満 | 400万円 |
50億円以上100億円未満 | 500万円 |
100億円以上 | 700万円以上 |
(なお、予納金額は事案に応じて変更になる可能性があります。)
ただし、「少額管財」という簡易的な運用が適用される場合には、予納金額は20万円程度で済むケースがあります(後述)。
なお、予納金以外にも、収入印紙・郵券・官報公告費として、トータル2万円分程度を裁判所に納付しなければなりません。
(2) 弁護士費用
法人破産の弁護士費用は、会社の規模や弁護士によってまちまちです。
着手金・報酬金の総額で50万円~300万円程度となるケースが多いですが、具体的な費用額については弁護士にご確認ください。
5.有限会社の法人破産を弁護士に依頼すべき理由
経営する有限会社について、法人破産の申立てを検討している場合は、お早めに弁護士へご相談いただくことをお勧めいたします。
(1) 受任通知の送付により、早期に取り立てがストップする
弁護士に法人破産をご依頼いただければ、その直後に全債権者に対して「受任通知」を発送することが多いです。
受任通知が債権者に到達すると、それ以降、金融機関や消費者金融等の債権者からの取り立てはストップしますので、日々の生活の平穏を取り戻すことができるでしょう。
(2) 煩雑な手続きにもスムーズに対応できる
法人破産の手続きは、工程が多く、全体を通して非常に煩雑です。債権者への対応も必要となるため、経営者ご自身で対応するのはかなり大変かと思います。
弁護士にご相談いただければ、法人破産に必要な手続きの大部分を代理いたしますので、労力を大きく軽減することができます。
(3) 少額管財により、予納金を抑えられることがある
「少額管財」とは、手続きを簡略化して破産管財人の業務負担を軽減する代わりに、破産管財人報酬を抑える破産手続きの運用を言います。少額管財の場合、通常では70万円~となっている予納金を、20万円程度とかなり低額に抑えることが可能です。
少額管財を利用するには、弁護士による代理人申立てが必須となります。弁護士費用がかかるとしても、予納金の減額分で大きく相殺できますので、ぜひ弁護士へのご依頼をご検討ください。
なお、少額管財を利用できるかどうかは裁判所によって異なります。ご自身の地域で少額管財が利用可能かどうかは、弁護士にご確認ください。
6.まとめ
有限会社の廃業には、株主総会の解散決議を経て会社を清算する方法と、法人破産をする方法の2通りがあります。
法人破産につきましては、当泉総合法律事務所の弁護士にご依頼いただければ、手続き全般を代理いたしますので、スムーズに手続きを完了することが可能です。
破産をご検討中の有限会社経営者の方は、ぜひお早めに弁護士までご相談くだ さい。