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法人破産の重要知識

株式会社が法人破産を申し立て。株主への事前通知は必要?

株式会社が法人破産をした場合、株主は投下資本を回収できなくなるという不利益が発生します。

しかし原則として、法人破産を申し立てる旨を、株主に対して事前に通知する必要はないとされています。

株主は会社の実質的な所有者であり、法人破産のような重要事項は事前に知らされるべきとも思われますが、なぜ事前通知が不要とされているのでしょうか?

今回は、株主に対する法人破産の事前通知が不要とされている理由や、法人破産が株主に与える影響などを解説します。

1.株主への事前通知が不要な理由

冒頭の通り、会社が法人破産を申し立てる場合、株主に対してその旨を事前に通知する必要はないのが原則です。

取締役会設置会社では、法人破産の申立ては、会社の業務執行に関する事項として、取締役会の決議事項とされています(会社法36221号)。
その反面、定款で別段の定めがない限り、株主総会が法人破産の申立てを決議することはできません(会社法2952項)。

法人破産の申立てが株主総会決議事項ではない以上、事前に株主に対して法人破産の申立てを通知することも必要ないのです。

なお、取締役会非設置会社では、法人破産の申立てを株主総会が決議することも認められています(会社法2951項)。

しかし、取締役会非設置会社においても、会社の側から能動的に、株主に対して法人破産の申立てを事前通知する必要はありません

法人破産の申立てについて、株主への事前通知が不要とされている実質的な理由としては、以下の2点が挙げられます。

(1) 法人破産は緊急性を要する

法人破産を申し立てるような状況では、会社の財務状況はきわめて悪化していると考えられます。

その状況を放置していると、会社財産はどんどん流出し、債権者に対する配当原資はどんどん少なくなってしまいます。

したがって、法人破産は緊急性を要し、会社が機動的に法人破産の申立てを決定できるようにしておくことが必要です。

もし法人破産の申立てについて、株主に対する事前通知を必要とすると、かなりの時間・手間・費用を要することが予想されます。
特に株主多数の企業の場合、株主に対する事前通知にかかるコストは非常に大きく、タイムリーに法人破産を申し立てることができなくなってしまいます。

そこで、法人破産の申立てについては、原則として株主への事前通知を不要とし、機動的な法人破産の申立てがなされるような仕組みとされているのです。

(2) 株式市場の混乱を招くことが懸念される

上場会社が法人破産の申立てを決定したことが市場に伝わると、その会社の株式は一斉に市場で売却され、一挙に無価値に近くなってしまいます。

株式市場の公平性の観点からは、法人破産のような重要事実は、すべての市場参加者に対して公平に情報取得の機会が与えられるべきです。
それなのに、株主に対してだけ個別に法人破産の情報が通知される場合、市場における不公平を招いてしまいます。

そもそも、未公表の重要事実を基に株式を売買することは、金融商品取引法によって禁止される「インサイダー取引」に該当する違法行為です。

法人破産の株主に対する事前通知を要求することは、株式市場における不公平・インサイダー取引を誘発するおそれがあるため、原則として通知不要とされています。

【定款で破産申立てが株主総会決議事項とされている場合もある】
なお、取締役会設置会社でも、定款によって法人破産の申立てを株主総会決議事項とすることができます(会社法295条2項)。さらに、定款で定めることによって、法人破産の申立てを取締役会決議事項から外し、専ら株主総会で決議するように変更することも可能です。
この場合、法人破産の申立ては、株主総会で決議することが必須となります。よって、株主総会招集通知等の中で、法人破産の申立てに関する事項を株主に事前通知することが必要です。

2.法人破産による株主への影響

株式会社が法人破産をすると、株主にも少なからず影響が生じます。
ただし、株式会社における間接有限責任の特性上、株主が会社の債務を負担することはないのでご安心ください。

(1) 投下資本が回収不能になる

株主は、会社株式を取得する際に、会社に対する出資を行うか、または譲渡人に対して対価を支払っています。

株式を取得する人は、値上がり益(キャピタルゲイン)や配当(インカムゲイン)を期待しているケースが大半でしょう。

しかし、株式会社が法人破産をした場合、株式の価値はゼロになってしまいます

会社が法人破産をした場合、最終的に法人格が消滅します。
そのため、株主が投下資本を回収できるのは、会社から株主に対して残余財産の分配が行われる場合に限られます。

株主が会社から残余財産の分配を受けられるのは、債権者に対する債務を完済した後です。

しかし、債権者に対する債務を支払えないからこそ、法人破産の申立てが行われるのであって、債務の完済や株主に対する残余財産の分配は期待できません。

したがって、株式会社が法人破産をした場合、株主は残余財産の分配を受けることができず、株式の価値がゼロになってしまう不利益を被るのです。

(2) 会社の債務を株主が負担することはない

株式の価値はゼロになってしまいますが、株式会社が支払えなくなった債務を、株主が負担することはありません

株式会社は「間接有限責任」を採用しています。
間接有限責任とは、会社の行為について「出資が無価値になる」という限度でのみ責任を負い、会社債権者に対して直接責任を負わないことを意味します。

法人破産は、会社が債権者に対する債務を支払えなくなる点で「債務不履行」に当たりますが、その責任を株主が負うことはないのです。

ただし、オーナー株主が会社の債務を連帯保証している場合は例外です。法人破産によって支払えなくなった会社の債務を、オーナー株主が支払う必要があるため注意しましょう。

[参考記事] 会社が破産したら連帯保証人は要注意!代表者が負う法律上の義務

3.株主は法人破産の責任を役員等に追及できる?

法人破産によって株式が無価値になってしまうことで、株主は損害を被ります。
法人破産によって生じた損害について、取締役などの役員に賠償してほしいと考える株主の方もいらっしゃるかもしれません。

この点、株式価値が毀損されたことに関して、株主が取締役などの役員の責任を追及できるのは、役員が職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合に限られます(会社法4291項)。

たとえば、

  • 役員が会社資金を横領した場合
  • 役員が粉飾決算により、会社の評判を失墜させた場合
  • 役員が反社会的勢力と繋がりを持った結果、会社の評判を失墜させた場合

など、役員にきわめて重大な背任行為があった場合には、株主の役員に対する損害賠償請求が認められる可能性が高いでしょう。

これに対して、経営判断上のミスによって会社の経営が傾いた場合には、役員に対する損害賠償請求が認められる可能性は低いと考えられます。

経営判断が失敗したことは結果論であり、判断当時において、役員に重大な過失があったと評価することは難しいからです。

なお、株主が直接役員に損害賠償請求を行う方法以外に、株主代表訴訟(会社法847条)を通じて、会社による役員の任務懈怠責任(会社法4231項)の追及を請求する方法も考えられます。

会社が役員の任務懈怠責任を追及する場合、役員に過失があれば(軽過失であっても)損害賠償請求が認められます。

ただし、経営判断に関する損害賠償責任は、やはり認められにくい傾向にあります(経営判断の原則。最高裁平成22715日判決など)。

4.まとめ

法人破産の申立ては、原則として株主に事前通知する必要はありません。

会社が法人破産を申し立てる場合、取締役会決議(または取締役の過半数の同意)により、その旨を決定するのが一般的です。
つまり、株主総会決議によって法人破産の申立てを決定する必要はないため、株主への事前通知はいらないのです。

ただし、事前通知が不要とは言え、経営陣としての責任を果たす観点からは、法人破産の手続きを進めるうえで、株主に対する説明を尽くすことが望ましいでしょう。

法人破産に伴う株主対応や、債権者対応に関しては、弁護士がサポートできるポイントがたくさんありますので、ぜひお早めに弁護士までご相談ください。

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