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動産売買先取特権についてわかりやすく解説

ビジネスでは「品物を先に渡し、お金は指定された日に支払ってもらう」というように、物を渡す行為と支払う行為が別々の日に行われることが多いです。

そこで発生しがちなのが、「品物を売ったのにお金を支払ってもらえない」というトラブルです。品物を渡してからお金をもらうまでにタイムラグがあるため、相手の資金繰り次第でこういった問題が発生します。

売った物が動産(不動産以外のもの)の場合は、「動産売買先取特権」という権利を使って債権を回収できます。

動産売買先取特権とはどういった権利で、どのように債権を回収できるのでしょうか?本記事で説明していきます。

1.動産売買先取特権の概要

一言で言えば、動産売買先取特権とは「債務者が持つ特定の動産を借金のカタに取って、優先的に弁済を受ける権利」です。
以下で詳しく説明します。

(1) 先取特権とは?

同一の債権者に対して複数の債権者がいる場合、原則として各債権者は平等に扱われます。これを「債権者平等の原則」と言います。

例えばA・B・Cという3人の債権者がそれぞれA:300万円、B:200万円、C:100万円の債権を同一の債務者に対して持っており、債務者には300万円しか弁済に充てられる財産がない場合、A・B・Cは債権額の比率である3:2:1の割合で300万円を平等に分けることになります。
この場合はA:150万円、B:100万円、C:50万円を分け合います。

しかし先取特権を持つ債権者は、債権者平等の原則に関係なく、他の債権者を差し置いて優先的に債権の回収ができます。

たとえば、前述の例でAの300万円の債権が給与債権で,B・Cの債権が貸金債権だとした場合、Aは一般の先取特権を有していることになり、B・Cに優先してAが全ての弁済を受けられることになります。

(2) 動産売買先取特権とは?

民法311条5号には、動産売買先取特権について以下のように記載されています。

民法311条5号
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
1 不動産の賃貸借
2 旅館の宿泊
(中略)
5 動産の売買
(後略)

この条文のキーワードは2つです。

動産の売買

条文から、「動産の売買」が原因で発生した債権には先取特権が認められていることがわかります。

この先取特権を「動産売買先取特権」と呼びます。

特定の動産

条文にある「特定の動産」とは、動産売買の場合、「売買した動産そのもの」のことです。

先取特権には「一般の先取特権」と「特別の先取特権」の2種類があります。また、「特別の先取特権」には「動産の先取特権」と「不動産の先取特権」の2種類があります。

一般の先取特権は、債務者の「財産全般」から優先的に弁済を受けられる権利です。

これに対して特別の先取特権は、債務者が持つ「特定の財産」からしか弁済を受けられません。

例えば民法311条2号には「旅館の宿泊」と記載されています。旅館に宿泊した客が支払いをしない場合、その客が宿泊時に持っていた荷物のみが「借金のカタ」となります。それ以外のものを差押えすることはできません。

動産売買先取特権も特別の先取特権の一つです。動産売買先取特権で差押えできる物の例を挙げます。

  • 自社で製造して、問屋や小売店に売った製品
  • 自分の店で消費者に売った商品

要するに債権者が行った売買の目的物であり、これらが相手の手元や倉庫などにある場合は、差押えをして競売にかけることができます。

なお、相手が既に目的物を転売して手元にない場合は、後述する「物上代位」を用いて債権を回収できます。

【動産売買先取特権と抵当権との違い】
先取特権は売買契約の内容に関係なく発生する権利です。一方の抵当権は、予め抵当権を設定する契約をしなければ発生しません。
また、以下の場合には先取特権が抵当権に優先します。
・不動産保存の先取特権(民法第337条):不動産を保存するためにかかった費用については、保存するための行為が完了した後で、その旨を直ちに登記する必要があります。これをしておけば、費用の支払いがないときに、保存行為をした不動産を競売にかけて債権を回収できます。
・不動産工事の先取特権民法(民法第338条):不動産に関する工事を始める前に費用の予算額を登記しておくことで、工事代金の未払い時に、その不動産を競売して債権を回収できます。ただし実際の工事費が予算を超えた場合、超過部分については先取特権を行使することができません。

2.動産売買先取特権の優先順位

上記の通り、先取特権は抵当権よりも優先順位が高くなることがあります。

実は、先取特権にも種類があり、その中で優先順位が定められています。

(1) 特別の先取特権>一般の先取特権

特別の先取特権は、動産か不動産かに関係なく、一般の先取特権に優越します。

なお、動産の先取特権と不動産の先取特権は差押えするものが異なるため競合せず、お互いに同列の優先順位となっています。

(2) 一般の先取特権の「共益の費用」は最も優先度が高い

一般の先取特権には以下の種類があります。

  • 共益の費用…強制執行の費用など、他の債権者にも利益があることに対して支払った費用
  • 雇用関係…給与など
  • 葬式の費用…葬式にかかった費用
  • 日用品の供給…水道光熱費や日用品の費用

このうち共益の費用だけは、その利益を受けたすべての債権者に対して優先するため、特別の先取特権に優越する場合があります。

3.動産売買先取特権がある場合の債権回収方法

では、実際に動産売買先取特権を行使して債権を回収する場合、どういった手続きを経るのでしょうか?

(1) 債務者が商品を持っている場合

相手がまだ商品を管理している状態であれば、その商品を差押えて競売にかけることができます。

動産売買先取特権を使うためには、以下の条件のいずれかを満たす必要があります。

  1. 差押えする動産(商品)を、債権者が執行官に提出する
  2. 差押えする動産を保管する者(債務者)が、差押えを承諾する旨の文書を執行官に提出する
  3. 債権者に先取特権があることを証明する文書(契約書など)を裁判所に提出し、裁判所の許可を得る

基本的には3が用いられます。1は債権者の手元に商品がなく、2は債務者が承諾しないことが多いからです。

なお、先取特権の対象となる債権の弁済期が到来している必要があるので、契約書には予め「期限の利益喪失条項」を盛り込んでおきましょう。

[参考記事] 期限の利益喪失条項とは?

動産売買先取特権が実行される場合、執行官が商品の保管場所へ行って、対象物を差押えます。このときに執行官が同一性を確認できないと、差押えを断念するかもしれません。

そのため、相手の手元にある品物が、自分で売却した物と同一であることを証明できる状態にある必要があります。一点物の特注品などは特定しやすいですが、量産品の場合は発注書や請求書、製品番号などで確認が行われます。

差押えが成功した後は、それを競売にかけてお金に換えることになります。

(2) 債務者が商品を転売していた場合

既に債務者の手元に商品がない場合です。この場合は転売先にある商品を差押えることができません。

ここで登場するのが「物上代位」です。債務者が転売先に商品を売って得る予定の代金を受け渡し前に差押えて、そこから債権を回収するのです。

債務者が転売でお金を得る権利は、先取特権の対象物が形を変えた権利です。この権利に対して担保物権(この場合は先取特権)を行使できるというのが、物上代位の概要です。

物上代位によって差押えをするには、「債務者が転売先に先取特権の対象物を売却した事実を証明するもの」が必要です。

債務者が転売先に商品を売却したことは、債務者や転売先の取引書類によって明らかにできます。しかし債権者が債務者に売却した物と、債務者が転売した物が同一であるかは、証明が難しい可能性があります。転売先の協力を得て、製品番号などの確認を行う必要があるからです。

しかも物上代位によって差押えができるのは、転売先が債務者にお金を払うまでの間です。転売先がお金を払ってしまうと、差押えするべき債権が消滅してしまいます。

これらのハードルを乗り越えて債権の差押えができたら、そこから売買代金を回収します。

4.先取特権は強力な権利だが使い方が難しい

動産売買先取特権は、契約書に盛り込まなくとも当然に発生し、他の債権者に先駆けて債権を回収できる、非常に強力な権利です。

ただし、自分が売った品物しか差押えることができず、いざ差押えをする際には、差押えする品物と自分が売った品物が同一であることを証明しなければなりません。しかも物上代位によって差押えるには、迅速な対応が求められます。

先取特権は強力な権利であるがゆえに慎重な運用が求められており、行使するための手続きは難易度が高いです。弁護士に相談して、先取特権の手続きを代行してもらうか、他の方法で債権を回収できないかを検討してもらうことをおすすめします。

泉総合法律事務所は、ご依頼者様の状況に合わせて最適な方法で債権を回収いたします。債権回収でお悩みの方は、ぜひご相談ください。

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