抵当権とは|効力や適用範囲の基礎情報・根抵当権との違い
「抵当権」は意外に身近な存在で、住宅ローンを使う際にはほぼ間違いなく抵当権が設定されます。
もちろん、企業がお金を貸し借りするなど、何らかの契約を締結するときにも、抵当権は頻繁に用いられています。
しかし、実際に抵当権を実行することは少ないかもしれません。人によっては「抵当権って設定する意味あるの?」と疑問に思うこともあるでしょう。
ここでは、抵当権の概要や抵当権を設定する意義、その他抵当権に関することを解説していきます。抵当権への理解を深めるためにお役立てください。
1.抵当権とは
まずは抵当権の概要を理解しましょう。
(1) 抵当権は「担保物権」の1種
お金を貸した相手が返済してくれないと、債権者は困ってしまいます。
そこで用いられるのが「担保」です。担保とは、いわば「借金のカタ」のことです。
お金を貸した相手が返済してくれないときに、債権者は担保として差し出された債務者の物品等を売却するなどして、債権の回収を図ります。
担保には様々な物があります。
例えば、質屋などは担保を日常的に使っている職業です。質草となる品物を鑑定して「この品物なら◯万円まで貸せる」と判断してお金を貸し、相手が期限内に返済しなければ、質草を売却して貸したお金を回収します。
抵当権の役割も、ある部分では質屋と同じです。
債権者は債務者の不動産等に抵当権を設定します。債務者が支払いをしない場合、債権者は抵当権を実行して不動産等を競売にかけ、落札価格から債権を回収します。
【「担保物権」のその他の種類】
民法で定められている担保物権(典型担保)には「留置権」「先取特権」「質権」そして「抵当権」の4種類があります。
このうち留置権と先取特権は、一定の条件を満たせば当事者間の意思に関係なく生じる権利です。しかし質権と抵当権は、当事者間の合意によって生じます。自動的に生じることはありません。
質権は、質屋のように「モノ(質草)を受け取る」ことが法律上の要件です。モノを受け取って自分の支配下に置くことを「占有」と言います。
これに対して抵当権では、債権者が担保を実際に占有する必要がありません。債務者自身が担保を使用収益できるという点が、抵当権の大きな特徴です。
(2) 抵当権の意義や役割
単に担保が必要なのであれば、抵当権にこだわる必要はありません。質権など他の方法を使ってもいいはずです。
ですが、抵当権には固有の意義や役割があるため広く利用されています。ここではその中から代表的なものを紹介します。
①担保目的物を債務者自身が使用収益できる
債務者自身が担保目的物を活用して利益を生み出せば、債務者は借金の完済をしやすくなります。
例えば、債務者が自分の工場の建物を抵当に入れてお金を借りたとします。その後、債務者自身が工場を運営してお金を稼げば、借金を完済しやすいはずです。
債務者が完済しやすいということは、債権者が債権を回収しやすいということでもあります。債権者は担保目的物を維持管理する手間や費用を削減しつつ、返済を待てばいいのです。
債権者と債務者の双方にとって一定のメリットがあるため、抵当権は様々なシーンで用いられています。
②債権を回収しやすい
抵当権は不動産や自動車、船舶など、登記や登録制度がある物に対して設定できますが、実務上は不動産に設定されることが多いです。
不動産は高額なことが多いため、競売にかけてもある程度高値になりやすく、債権を回収するのに十分な落札価格になる期待ができます。
なお、落札価格が債権額を超えていたとしても、債権者が得られるのは自身の債権額までです。債権額を超えた部分は債務者に引き渡されます。
③債務者が借金返済に本気になりやすい
例えば質屋の場合、質草に入れる物は「最悪失ってもいい物」で問題ありませんし、そういった物を持ち込む人も多いです。
しかし抵当権は不動産や自動車、船舶など、失うと事業や生活の継続に支障をきたしやすい物に設定されます。もし借金を返済できずに抵当権を実行されると、債務者は事業や生活が立ち行かなくなる可能性があります。
そのため債務者は、抵当権の実行を阻止するために借金の返済を真剣に考えて行動するようになることが多いです。債権者としては比較的安心してお金を貸すことができます。
④効力の範囲が広い
抵当権は効力の範囲が広く、担保不動産だけでなく、担保不動産を構成する付合物や従物(石垣、畳、エアコンなど)も自動的に抵当権の対象となります。
また、被担保債権が債務不履行となった場合には、その後に生じた抵当不動産の果実(たとえば、抵当権のある不動産に自然に実る果物や野菜、不動産から生じる賃料など)も対象となります。
賃料などから債権を回収できるのは大きなメリットであるため、収益不動産に抵当権が設定されるケースも多く見られます。
(3) 根抵当権との違い
抵当権に近いものに「根抵当権(ねていとうけん)」があります。
根抵当権は複数の債権を担保するもので、「箱」に例えられることが多いです。
根抵当権を設定する場合、まず「一つの担保目的物に対して、どのくらいの金額まで担保できるか」という上限金額を設定します。これは「極度額」というもので、いわば根抵当権という箱の大きさに相当します。
その後借金をすると、箱の中に「事業のための借金1,000万円」「土地購入のための借金2,000万円」といった形で債権を入れていくことになります。完済した債権は消滅するため箱からなくなりますが、根抵当権という箱は消滅せずに残り続けます。箱の空いたスペースには再び別の債権を入れることができます。
抵当権を利用すると、その都度抵当権を設定する必要があり、登録免許税などの費用や登記の手間が発生します。
しかし根抵当権は債権が消滅しても継続するため、再設定の手間がありません。
この特性を活かして、同じ会社と何度も取引する場合は抵当権ではなく、根抵当権が使われることがあります。
2.抵当権の設定方法
抵当権は当事者間の契約で発生します。たとえ口約束でも構いません。
しかし、通常は法務局で抵当権設定登記を行います。抵当権は1つの物に対して複数設定でき、登記の先後で優劣が決まるからです。
例えばA社の借り入れ2,000万円に対する抵当権を不動産に設定した後で、B社の借り入れ1,000万円の抵当権を同じ不動産に設定したとします。
ここでB社が先に登記した場合、抵当権の実行によって競売が行われると、B社が先に債権を回収します。A社はB社の後回しになるため、もし不動産が2,500万円でしか売れなかった場合、B社が1,000万円を回収した後の1,500万円しか得ることができません。
そういったことを防ぐため、抵当権は設定したらすぐに登記を行うのが普通です。
では、不動産に抵当権を設定する方法を詳しく解説します。
(1) 必要書類の準備
まず以下の書類を揃えます。ケースによっては追加書類が必要なこともあります。
- 抵当権設定登記申請書(法務局で取得)
- 登記原因証明情報(抵当権設定契約書など)
- 不動産の登記識別情報または登記済証
- 印鑑証明書(登記申請日を基準に3ヶ月以内に発行されたもの)
- 委任状(司法書士に依頼する場合などに必要。当事者双方のもの)
なお、会社法人番号を申請書に記載するため、当事者双方の商業登記簿謄本(登記事項証明書)が必要になることもあります。
正確な法人番号を登記申請書に書けば登記官が内容を確認してくますが、法人番号がわからない場合は法務局で交付してもらいましょう。
(2) 抵当権設定登記の申請
担保不動産の所在地を管轄する法務局へ申請します。窓口へ行くほか、郵送でも申請できます。
このとき登録免許税も収入印紙で支払います。金額は、原則として債権額×0.4%です。
(3) 登記事項証明書を取得して確認
申請が受理されたら、2週間程度で登記が完了します。
抵当権が設定されると、登記事項証明書または登記簿謄本にその旨が記載されます。
登記事項証明書はデータ、登記簿謄本は紙媒体であり、基本的には同一のものです。
登記事項証明書(登記簿謄本)は担保不動産を管轄する法務局で取得できます。
窓口で申請して所定の書類を提出するか、下記のリンクから申請書をダウンロードして印刷し、必要事項を書いて郵送します。郵送の際は返信用封筒などが必要なので、予め法務局に問い合わせてください。
参考:各種証明書請求手続|法務局HP
その他、オンラインでの申請も可能です。
抵当権が設定されたか確認するには、登記事項証明書(登記簿謄本)の「乙区」というところを見ます。
「登記の目的」欄に「抵当権設定」と書いてあり、「権利者その他の事項」に自社または自分の名前が書いてあれば、抵当権の登記が成功したことがわかります。
3.債権回収は弁護士へ相談を
抵当権はいざというときに相手の不動産などを売って債権を回収できる権利です。使い勝手が良いため広く用いられています。
しかし、登記にある程度の手間がかかりますし、そもそも相手が抵当権を設定できるものを持っているかわからないこともあるでしょう。
債権回収は事前準備が大切ですが、実際にお金を貸した後で回収が滞っているという方は、債権回収の知識が豊富な弁護士法人泉総合法律事務所の弁護士にどうぞご相談ください。