債権者が死亡した場合の債権回収
債務者(お金を借りた側)が死亡した場合、相続放棄等をしない限り、債務者の相続人がその債務を相続します。
では、債務者ではなく「債権者(お金を貸した側)」が死亡した場合、その債権者が持っていた債権はどうなるのでしょう。
債務者の支払義務が免除されるのでしょうか?それとも何らかの方法で回収が図られるのでしょうか?
この記事では、債権者が死亡したときの債権回収について解説します。
1.個人の債権者が死亡した場合
まずは、債権者が個人(自然人)である場合を解説します。
(1) 貸金返還請求権は相続人に引き継がれる
結論から言えば、故人の相続人が故人の持っていた「貸金返還請求権」を相続すれば、債務者に対して借金を返すように請求できます。
裏を返せば、貸金返還請求権を相続しなかった場合(相続放棄をしたり、別の相続人が相続したりしているケース)では、自分で借金の取り立てをすることができません。貸金返還請求権を相続した人だけが債権回収に乗り出すことになります。
(2) 相続人が督促(返還請求)をする場合の注意点
問題は「相続人がどのようにして借金の取り立てを行うか」です。
元々の債権者である故人と債務者は知り合いかもしれませんが、相続人と債務者は面識がないことも多いはずです。
いきなり取り立てに行くと、債務者が「知らない人が取り立てに来た!」と驚き、場合によっては怪しまれてしまうかもしれません。
相続人が督促を行う場合、何に気をつけるべきなのでしょうか?
正確な債権額と相続分の確認
相続人が複数いる場合、遺産分割という問題が発生します。誰がどの財産をいくら相続するかという、遺産相続トラブルでおなじみの問題です。
故人の債権については、相続人が特に何も言わなければ「単純承認」という形式で相続されます。債権額を相続人の頭数で割った金額を、各相続人相続するという方法です。
仮に債権額が300万円で、故人に3人の子がいた場合、1人あたり100万円の債権を相続します。
しかし、特に貸金債権というものは、時間の経過とともに遅延損害金や利息が膨らむ性質を持っています。利息などの分まで計算しておかなければ、本来回収できたはずの部分を見逃してしまいかねません。
債権額を明確化し、相続人の「誰」が「どの」債権を、「いくら」を相続するのかを、遺産分割協議でしっかりと決めておきましょう。
取り立てをする人の選定と委任
債権を相続した人達がそれぞれ勝手に債権を回収しようとすると、債務者も「誰にいくら返せばいいの?」と混乱してしまいます。
そこで、予め相続人の中から「取り立てを実行する人」を1人だけ決めておくことをおすすめします。
督促の担当者を決めたら、督促者以外の人は督促者に委任状を作って渡しておきましょう。督促者が債務者に対して「委任を受けて督促している」ことを示せます。
督促する人を決めておけば、各相続人が個別に債務者に取り立てる手間が省けますし、債務者は交渉の窓口が明確にわかるため安心です。結果的にスムーズに債権回収できる可能性が上がります。
消滅時効の確認
故人が長年借金の回収を放置している場合、消滅時効の成立に必要な期間が経過しているかもしれません。
期間が経過していても、債務者が時効の援用(債務を消滅させるという意思表示)をしない限り消滅時効は成立しませんが、援用するかどうかは相手次第です。
援用されると債権を回収できなくなるため、確認が必要です。
債権者や相続人であることを証明できる書類の準備
債務者としては、連絡や訪問をしてきた相手が本当に債権を引き継いだ人なのか確かめたいはずです。
督促してきた相手が誰かを確かめるために、債務者が相続人に対して、運転免許証などの身分証明書、戸籍謄本や除籍謄本などの公的な書類の提出や、その閲覧を求めることもありえます。
相続分を知るために、遺産分割協議書の閲覧を請求されることもあるでしょう。
よって、これらの書類を予め用意しておくことをお勧めします。
2.債権者が法人の場合
続いて、債権者が法人の場合をご紹介します。
「法人の死=倒産」がイメージできますが、倒産にはいくつかの種類があります。
そして、倒産する法人が持つ債権の扱いは、概ね3パターンに分かれます。
(1) 破産のケース
まずは、会社が「破産」した場合です。倒産のほとんどは破産とも言われています。
法人が破産すると、裁判所が「破産管財人」という、破産手続きを実行する人を選任します。通常は裁判所管内の弁護士が指名されます。
破産管財人の役目は、会社の資産を処分してお金に換え、破産会社の債権者に分配することです。
資産の処分に先立って、破産管財人は破産会社の財産を調査します。破産会社側は破産管財人の指示に従って、自分が持つ債権の種類や金額、債務者の連絡先などの情報を提供しなければなりません。
もし破産会社が何らかの債権を持っていた場合、破産管財人が破産会社の債務者に連絡して、債権の取り立てを行います。破産会社の代表者などが自分で取り立てを行うわけではありません。
破産管財人が回収した債権は、破産会社が背負っていた債務の弁済に使われます。回収できた債権が破産会社の利益になるわけではありません。
(2) 特別清算のケース
「特別清算」は、破産と同じように、手続き後に法人が消滅するタイプの倒産です。
しかし破産と違い、特別清算の場合は「清算人」が取り立てを行います。清算人には会社の代表者が就任しても構いません。
清算人の役割は基本的には破産管財人と同じです。裁判所の関与を受けながら自己の債権を回収し、それを原資にして債権者に分配して弁済します。
ただし、特別清算は手続きの要所で債権者からの同意が必要となるため、同意を巡って清算人が矢面に立つことになります。
そういった煩わしさがためか、破産を選ぶケースが圧倒的に多いようです。
(3) 私的整理、民事再生、会社更生のケース
この3つも「倒産」に分類されますが、手続き後でも会社自体は消滅せずに存続します。そのため厳密な意味では「法人の死」とは言えませんが、倒産の一形態なので、ここで紹介します。
これらのケースでは、法人の債務が減額されますが、法人が存続するため、法人が持っている債権も従来通り存続します。
つまり法人側は、私的整理・民事再生・会社更生のいずれを行った場合でも、自己の債務者に対して以前のように督促ができます。法人の債務者の支払義務は、手続き中でも手続き後でも何ら変わらないのです。
ただし会社更生の場合、実際に督促を行うのは法人や法人の代表者ではありません。会社更生によって代表者は退任することになり、裁判所が選任した「更生管財人」が法人の財産を管理します。その更生管財人が法人の債権回収も担当します。
3.債権回収で困ったことは弁護士に相談を
個人(自然人)である債権者が死亡した場合、債権者が持っていた貸金返還請求権は相続人が相続できます。
相続人は貸金返還請求権に基づいて債権の回収ができますが、正確な債権額や故人と債務者の関係性など、わからないことも多いはずです。
そのため債権者自身が債権回収を行うと、何らかのトラブルに巻き込まれるおそれがあります。弁護士に依頼して債権回収を代行してもらうのが1番です。
法人の場合は、倒産の方法によって債権回収の方法が異なります。
倒産には複数の形態があるため、どれを選ぶべきなのかは法人の財務状況や法人代表者の希望などを考慮して弁護士に判断してもらうことがお勧めです。
相続や倒産が絡む債権回収は注意点が多いですので、ぜひ弁護士にご相談・ご依頼ください。
泉総合法律事務所は、相続、倒産そして債権回収まで幅広い分野に対応可能です。どうぞお気軽にご相談ください。