少額債権の回収方法(支払督促、少額訴訟など)
少額債権の回収は意外と難しい問題です。と言うのも、「費用倒れ」の可能性があるからです。
債務者が債務の弁済に応じない場合、訴訟を提起するなどして債権を回収しようとしても、その債権が少額だと回収できる債権額以上に費用(裁判所費用など)がかかってしまう可能性があります。
そのため、「仕方がないから少額債権の回収は諦めよう」と考えてしまう方もいます。
しかし、少額とは言え債権は債権です。回収できないと事業活動に影響を及ぼすこともあるでしょう。
ここでは、少額の債権を回収するのに有効な方法を紹介します。費用倒れを気にして諦める前に、ぜひ本記事の内容をご検討ください。
1.少額債権の回収方法一覧
まずは、費用を抑えつつ債権を回収する方法をいくつか紹介します。
それぞれの詳細やメリット、デメリットは後ほど解説します。
(1) 内容証明
法的措置を見据えた督促です。
「内容証明郵便」により送付した督促状などの文書は、後の裁判などで証拠として提出できます。
内容証明郵便が届くだけで債務者が「本気で取り立てに来ている!」と焦り、裁判を避けるために支払いに応じることもあります。
内容証明は基本的に2,000円以内で送ることができる一方で、弁済を強く促す効果があるため、コストパフォーマンスはかなり良いと言えるでしょう。
(2) 支払督促
簡易裁判所に申立てをすることで、裁判所から「支払督促」を送達してもらう方法です。
債務者からしたら突然裁判所から書類が届くことになるため、驚いて支払いをする可能性が高くなります。
支払督促の無視を続けた場合は、裁判を経ることなく相手の財産を差し押さえるなどの強制執行ができるようになります。
(3) 少額訴訟
こちらも簡易裁判所で行う手続きです。元本60万円以下の金銭の支払いを求める簡易な裁判を提起できます。
通常の裁判は時間がかかりますが、少額訴訟は基本的に1度の審理で済み、そのまま判決が行われます。
基本的に1日で全てが決まるため、早い解決を期待できる手続きです。
判決後に支払いがない場合、支払督促と同様に強制執行をして債権を回収できます。
それでは、以下でそれぞれの債権回収方法について個別に紹介していきます。
2.内容証明郵便(配達証明付き内容証明郵便)による督促
(1) 内容証明郵便の送り方
内容証明郵便を送るには、取り扱っている郵便局に以下のものを持ち込んで送付手続きをする必要があります。
- 送り先の宛名と送り主の住所氏名を書いた封をしていない封筒
- 同じ文面の書面3通
3通のうち1通は相手に送付され、1通はその場で返却され、残り1通は郵便局で保管されます。
配達記録とともに保管されるため、「いつ」「誰が」「誰に」「どういった内容の書面」を送ったのかわかるようになっています。
また、内容証明郵便は、郵便配達員が受取人(債務者)に手渡しで届けるため、受取人が「郵便事故で届いてない」などと言い訳ができません。
また、債務者が内容証明を無視したり、受け取り拒否をしたりしても、送った内容と日付は郵便局に記録されています。催告した事実は残るため、債権者はその後の手続きを粛々とこなしていけば問題ありません。
(2) 書式と文例
内容証明郵便は以下の書式に則って作成する必要があります。
縦書きの場合 | 1行20字以内、1枚26行以内 |
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横書きの場合 | 1行20字以内、1枚26行以内 1行13字以内、1枚40行以内 1行26字以内、1枚20行以内 |
書面が2枚以上になる場合、つづり目に押印する必要があります。
文面としては、以下のような内容で作成しましょう(内容は適宜変更してください)。
内容証明の書式はネットで検索すれば様々な物が見つかりますが、ケースに応じた適切な文面にするには、弁護士に作成を依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼すると弁護士名義の内容証明が相手に送られるため、弁護士の名前を見て焦った相手から支払いがされる可能性も高まります。
数万円の弁護士費用が上乗せされますが、支払いを促す効果が格段にアップするでしょう。
3.支払督促
支払督促は、強制執行(債務者の財産の差押え)を行うための手続きで、簡単かつ比較的短期間で終わります。
申立てに必要な書類に問題がなければ、申立人の主張に基づいて、簡易裁判所の書記官が債務者に対して金銭の支払いを命じます。
債務者は支払督促の書類が届くまで支払督促が行われていたことを知るすべがないため、防御策がありません。
(債務者は支払督促が行われてから異議申立てを行うか、弁済に応じるなどの対策を行うことになります。)
支払督促について、詳しくは以下のリンクで解説しています。
[参考記事] 支払督促とは|やり方などをわかりやすく解説以下では、支払督促のメリットとデメリットについて解説します。
(1) 支払督促のメリット
費用が安い
支払督促の申立て手数料は通常の訴訟の半額です。
例えば、100万円を請求する場合、通常の訴訟では1万円の申立手数料が必要ですが、支払督促であれば5,000円で済むのです。
手数料の詳細は裁判所HPをご参照ください。
手続きが比較的簡単
支払督促の申立ては、債務者の住所を管轄する簡易裁判所に行います。
債務者の住所が遠方の場合は面倒だと思うかもしれませんが、実際に裁判所まで行く必要がありません。
支払督促の手続きは書類のやりとりのみで済むため、郵送やオンラインで完結できます。
強制執行に移りやすい
支払督促をして相手が異議申立てをしなかった場合、申立人は「仮執行宣言付支払督促」という書類を手に入れます。
これがあれば、裁判所に強制執行を申し立てることが可能です。
通常の訴訟で得た判決でも強制執行をすることができますが、その場合は裁判所で「執行文」というものを付け加えてもらわなければなりません。
仮執行宣言付支払督促には既に執行文が付いているため、手続きを1つ省略して強制執行に移ることができます。
(2) 支払督促のデメリット
支払督促の手続では、債務者が異議申立てをできる機会が2回与えられます。もし異議申立てが行われると通常の裁判に移行して、そこで争うことになります。
こうなると、審理に必要な書類や証拠集めになどに時間を取られてしまいますし、相手の住所を管轄する裁判所が遠い場合は裁判に参加するための移動にも苦労します。
支払督促は、相手が異議申立てをしない可能性が高い場合に行うのが望ましいでしょう。
4.少額訴訟
少額訴訟は比較的簡易に、場合によっては自分でも提起できる訴訟です。
うまくいけば、短期間で債権の回収が完了する可能性があります。
少額訴訟の詳細について知りたい方は、以下のコラムをご覧ください。
[参考記事] 少額訴訟とは|デメリット・流れ・やり方少額訴訟のメリットとデメリットは以下の通りです。
(1) 少額訴訟のメリット
1日かつ1回の審理で終わる
少額訴訟の審理は1回かつ即日判決なので、短期間で終結します。
簡易な審理とはいえ訴訟であり、裁判であることには変わりがないため、判決にはしっかりとした効力がありますのでご安心ください。
少額訴訟債権執行ができる
通常の訴訟を経ると判決文に「執行文」を付けなければ強制執行ができません。そして、強制執行の手続きは複雑かつ時間がかかります。
しかし少額訴訟をした場合は、「少額訴訟債権執行」という制度を利用できることになっています。
少額訴訟債権執行では執行文を付与する手間がないなど、簡易な手続きで相手の財産を差押えて債権の回収ができます。
(2) 少額訴訟のデメリット
スピード感が少額訴訟最大のメリットですが、デメリットもいくつかあります。
通常の訴訟に移行する可能性
債務者側が少額訴訟に異議申立てを行うと、少額訴訟から通常の訴訟に移行してしまいます。
通常の訴訟は手間や時間がかかり、控訴もできるため、迅速な債権回収は望めません。
【少額訴訟は控訴ができない】
少額訴訟は迅速さをモットーとしているので控訴ができません。
同じ簡易裁判所に異議申立てはできますが、地方裁判所に控訴して再審理などはできないので、1度の審理のために全ての証拠や証人などを完璧に集めて臨む必要があります。
望まない判決が出る可能性
少額訴訟では、原告(債権者)が勝ったとしても、被告(債務者)に分割払いを命じる判決になることがあります。
場合によっては遅延損害金などをカットした額の支払いを命じる判決が下ることもありえます。
請求額の全てを認容する判決が出ない場合、想定より少ない額の債権しか回収できなくなってしまいます。
年10回しか利用できない
同一の債権者が少額訴訟を利用できるのは年10回までです。
制限がないと貸金業者が大量に少額訴訟を利用する可能性があるため、このような制限が設けられています。
5.少額債権の回収は弁護士へ
少額債権の回収は、回収にかかる費用との相談になります。費用のことを考えると弁護士を利用しづらいかもしれません。
しかし、弁護士に内容証明郵便を準備・送付してもらうだけでも大きな効果があるため、意外にあっさりと債権を回収できる可能性もあります。
内容証明で解決できなくても、少額訴訟などをすれば、弁護士が代理人として裁判に参加して主張できるため、勝訴の可能性を高くできます。
もちろん、支払督促や少額訴訟で相手方が異議を申立てて、通常訴訟に移行した場合でも、弁護士がいれば訴訟を有利にすすめることが可能です。
債権回収でお困りの方は、ぜひ泉総合法律事務所までご相談ください。