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債権回収の重要知識

民法の「相殺」とは?相殺の要件・効果と相殺できない債権

債権の支払いが滞ってしまったケースで、債務者に対して反対債務を負っている場合には、「相殺(そうさい)」をすることがもっとも確実な債権回収方法となります。

相殺は非常に強力な債権回収手段であり、債権者にとって利用価値が高い制度なので、民法上のルールを正しく理解しておきましょう。

この記事では、相殺の要件・効果・相殺できない債権など、相殺に関する民法上のルールを全般的に解説します。

1.「相殺」とは?

対立する当事者同士が債権を持ち合っている場合、双方が有する債権を「相殺」することができます。

法的な「相殺」とは、自働債権と受働債権を対当額で打ち消し合うことを意味します。

自働債権とは、相殺を行う側が相殺を受ける側に対して有する債権のことです。
これに対して受働債権とは、相殺を受ける側が相殺を行う側に対して有する債権をいいます。

わかりやすく言うと、「自分が相手に対して債権を持っているけれど、相手も自分に対して債権を持っている」という状況で、両債権を等しい金額で「チャラ」にするのが相殺です。

(1) 相殺が認められている理由

民法上、相殺が認められているのは、以下の理由によります。

①決済を省略でき便利だから

債権は本来、現金の引渡しや振り込みなどの方法による「決済」を必要とします。

しかし、相殺を行うことで、2つの債権の「決済」を省略できるため、両当事者にとって便利です。

②債務不履行を回避でき公平だから

両当事者が相対する債権を有するケースで、どちらか一方だけが債務を履行し、もう一方が履行しなかった場合、誠実に債務を履行した当事者が損をする不公平な結果が生じてしまいます。

このような場合には、相殺を認めることにより、双方が有する債権を等しく満足させることができるため、両当事者にとって公平な結果がもたらされます。

(2) 相殺の要件

相殺を行うためには、対立する債権が「相殺適状」にあることが必要です(民法505条1項)。

「相殺適状」とは、対立する債権について、以下のすべての要件を満たすことを意味します。

①両債権が同種の目的を有すること
(例)金銭債権同士の場合。貸付債権vs売掛金債権など

②自働債権の弁済期が到来していること
民法505条1項本文には「双方の債務が弁済期にあるとき」とありますが、相殺を行う側は、受働債権に関する期限の利益を放棄できるので、弁済期の到来が必須なのは自働債権のみです。

③両債権が相殺禁止に該当しないこと
相殺禁止に該当する債権については、後述します。

なお、時効によって消滅した債権についても、相殺適状を満たすことを要件として、その債権を自働債権として相殺に用いることが認められています(民法508条)。

(3) 相殺の効果

当事者の一方が相手方に対して相殺の意思表示を行うと、両当事者は、自働債権・受働債権に対応する各債務につき、対当額で自らの債務を免れます。

上記の債務消滅の効果は、相殺適状が満たされた時点に遡って生じるものとされています(民法506条2項)。

2.相殺が禁止されている債権

一部の債権については、何らかの理由によって、相殺に用いることが禁止されています。

相殺禁止債権の具体例は以下のとおりです。

(1) 当事者が相殺を禁止する旨の意思表示をした債権

当事者が相殺を禁止する旨の意思表示をした債権については、当事者意思を尊重する趣旨により、相殺が禁止されています(民法505条2項)。

ただし、当事者による相殺禁止の意思表示を第三者に対抗するためには当該第三者が相殺禁止について悪意または相殺禁止を知らなかったことについて重過失を有することが必要です。

(2)  一定の不法行為により生じた損害賠償債権

以下のいずれかに該当する不法行為によって生じた損害賠償債権は、相殺が禁止されています(民法509条)。

①悪意による不法行為

「やられたらやり返す」という考え方による不法行為の誘発を防止するため、相殺が禁止されています。

(例)殴られた相手に対して、「相手はどうせ損害賠償金を支払えないのだから、こちらも一発殴り返して、おあいこにしてしまおう」(不法行為に基づく損害賠償請求権同士を相殺すればよいという考え方)

②人の生命または身体の侵害

被害賠償金を現実に支払わせる必要性が高いと考えられるため、相殺が禁止されています。

(3) 差押禁止債権

民事執行法152条等に規定される差押禁止債権(年金請求権・給与債権・退職金債権など)は、債権者の生活を保障するため、現実の支払いを確保する必要性が高いと考えられています。

そのため、差押禁止債権を用いた相殺は禁止されています(民法510条)。

(4) その他、法令上相殺が禁止されている債権

上記以外にも、各法令において、個別に相殺が禁止されているケースが存在します。

(例)
・前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金の相殺(労働基準法17条)
・破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担した場合の相殺(破産法71条1項1号) など

3.差押えと相殺の優劣について

相殺に関して、古くから存在する法律上の有名な論点として、「差押えと相殺の優劣」があります。

「差押えと相殺の優劣」とは、債務者が有する債権が誰かに差し押さえられた場合に、その債権を受働債権として、自分の有する債権(自働債権)との間で相殺を行うことができるかという問題です。

先に差し押さえた債権者と、後から相殺を主張する債権者、どちらが優先するかは実務上重要な論点となります。

この点、差押えよりも「後」に取得した債権を自働債権とした相殺が認められないことは、従来から民法の明文上明らかでした。

一方、差押えよりも「前」に取得した債権を自働債権とした相殺については、従来の学説上では「制限説」と「無制限説」が対立していました。

制限説:差押え前に取得した債権であっても、自働債権の弁済期が受働債権よりも遅れる場合には、相殺が認められないとする考え方
無制限説:自働債権と受働債権の弁済期の先後にかかわらず、差押え前に取得した債権を自働債権とした相殺を認める考え方

この制限説と無制限説の間の対立は、最高裁昭和45年6月24日判決によって無制限説が指示されたことにより決着し、現行民法では無制限説が明文化されています(民法511条1項)。

したがって結論としては、同項に規定されているように、

  • 差押え「後」に取得した債権を自働債権として、差し押さえられた受働債権との相殺を主張することは不可
  • 差押え「前」に取得した債権を自働債権として、差し押さえられた受働債権との相殺を主張することは可能

となります。

4.破産法・民事再生法における相殺権の取り扱い

相殺を行うと、反対債権を担保のように活用して債権回収を図れることから、相殺には「担保的機能」があると解されています。

この相殺の担保的機能は、債務者の倒産に関するルールを規定する破産法・民事再生法においても、以下のとおり保護されています。

(1) 破産法における相殺権の取り扱い

破産債権者が、破産手続開始の時において破産者に対する債務を負担する場合、破産債権と当該債務の間で手続外の相殺を行うことが認められています(破産法67条1項)。

なお、破産債権が破産手続開始の時において期限付もしくは解除条件付の場合、または破産者の有する債権が期限付もしくは条件付である場合にも、破産債権者による相殺が認められます(同条2項)。

(2) 民事再生法における相殺権の取り扱い

再生債権者が、再生手続開始の時において再生債務者に対する債務を負担し、かつ債権・債務の双方が債権届出期間の満了前に相殺適状となった場合には、再生債権者による手続外での相殺が認められています(民事再生法92条1項)。

5.まとめ

債務不履行に陥った債権がある一方で、債務者に対し何らかの債務を負っている場合には、相殺を活用することで債権回収を円滑に行うことができます。

相殺の有する担保的機能は、債務者が倒産するような局面においても、破産法・民事再生法などの各種法令によって保護されています。
債権者としては、相殺の要件等を正しく理解して、相殺が活用できる場面が来たことを見逃さずに、時機を捉えて対応することが大切です。

民法上の相殺に関するルールの内容がよくわからない方や、相殺を活用して債権回収を実現したいとお考えの方は、お早めに弁護士までご相談ください。

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