法人破産に強い弁護士に無料相談【東京・神奈川・埼玉・千葉】
安心と信頼のリーガルネットワーク弁護士法人泉総合法律事務所法人破産
0120-759-132
【電話受付】平日9:30〜21:00/土日祝9:30〜18:30
お問い合わせ
(365日24時間受付中)
法人破産の重要知識

債務超過の企業でも事業譲渡できる?

会社の財務状況が悪化すると、収支改善の方法のひとつとして、会社の事業の譲渡が行われることがあります。
事業譲渡は、債務超過の状態でも可能とされています。

この記事では、そもそも事業譲渡とは何か?そのメリット・デメリットについて、わかりやすく説明します。

1.事業譲渡について

事業譲渡とは、会社の「事業」を「取引行為」によって他者に譲り渡すことです。
ここに言う「事業」とは、「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」と理解されています。

しかし、これだけでは何のことか皆目わかりませんから、簡単な具体例を設定して説明しましょう。

【設例】
もともと寿司職人だったAさんが創業したA食品株式会社は、寿司屋と洋食レストランを経営しています。コロナ禍のために、どちらも客入りはかんばしくなく、近年は赤字が続き、会社の資金繰りは苦しくなってきました。
Aさんには、後継者となる子供もいないため、今後は本来の寿司屋経営に集中し、洋食レストラン部門は売却しようと考えています。

このように、会社がおこなっている仕事のうち、洋食レストランの経営という仕事を他者に引き継いでもらう方法のひとつが「事業譲渡」です。

事業譲渡は、単なる「会社財産の譲渡」に尽きるものではありません。A食品株式会社の洋食レストラン経営は、例えば、次の様々な資産の集まりの上に成り立っています。

  • レストラン店舗の建物の所有権や建物賃借権
  • 厨房機器や備品、装飾品などの所有権
  • 冷凍庫など大型厨房機器や事務OA機器のリース契約
  • シェフ、フロアスタッフら従業員との労働契約
  • 卸業者との食材・飲料等の仕入れ契約
  • メニューのレシピ
  • レストランの商標
  • レストラン名で発表している料理本
  • コンビニやスーパーに納品する洋食弁当の売買契約
  • 電気やガスの供給契約
  • 集客のためのホームページの製作、運営契約

例えば、一人株主であるAさんが保有するA食品株式会社の株式全部を他者に渡してしまったり、A食品株式会社を他社と合併させてしまったりする場合には、上記の様々な資産、権利関係も、丸ごと他者に移転することになりますが、設例のように寿司屋は残したいという希望には沿えなくなります。

そこで行われるのが「事業譲渡」なのです。

目的は、洋食レストラン事業だけを丸ごと切り離して譲渡することにありますが、法律的には、例えば、①レストラン店舗の建物の所有権や建物賃借権の譲渡行為、②厨房機器や備品、装飾品などの所有権の譲渡行為、③従業員との労働契約の移転行為、④商標権の譲渡行為など、ひとつひとつの権利義務を譲渡する個別の取引行為・取引契約が必要となります。

例えば、レストランの建物所有権、食器やカトラリーの所有権、商標権など、権利者であるA食品株式会社が単独で他者に譲渡することが可能な権利もあります。

他方、従業員との労働契約、卸業者との仕入れ契約、コンビニなどとの弁当販売契約などは、A食品株式会社は債権者であると同時に債務者でもあり、免責的債務引受となるので、契約の相手である従業員、卸業者、コンビニなどの承諾が必要となります(民法4723項)。

2.債務超過の企業でも事業譲渡は可能

上にみたように、事業譲渡は、単なる個々の取引行為の集積に過ぎませんから、売り手と買い手が合意すれば成立することが原則です。
売り手が債務超過状態か否かは問題ではありません。

債務超過とは、企業の全資産をもってしても、全負債を完済できない状態です。
この債務超過は、法人においては、破産原因のひとつとされています(破産法161項、151項)。

債務超過の企業は、事業譲渡をすることで売却の対価を得ることができ、会社債務の返済原資や残した事業への投資に回すことが可能となります。

また、事業譲渡の売り手は、どの事業を売るかを自由に選ぶことができますし、譲渡する事業の中でも、例えばレストランの建物は譲渡するが、商標権は渡さないなど、個々の権利毎に譲渡するか否かを決めることが可能です。

3.事業譲渡のデメリット

他方、事業譲渡にもデメリットはあり、その多くはメリットの裏返しです。

(1) 譲渡相手にも選択の自由がある

事業譲渡が個別の取引行為の集りに過ぎず、売り手が内容を自由に選択できるということは、逆に、買い手側にも選択の自由があるということです。

当然、買い手側は利益を得るために譲渡を受けるのですから、譲渡を受ける事業の選定だけでなく、個々の資産・権利も厳しく取捨選択をして、不要な権利義務は引き取りませんし、できる限り安く買い叩くことを目指します

したがって、例えば、売り手側が、レストランの従業員を雇用し続けてほしいと希望しても、従業員は引き取らないと拒否されてしまう場合もあります。レシピと商標権だけ買い取りたいと言われる場合もあるでしょう。

買い手にレストランの営業を続けて欲しいと要望しても、買い手は個別の資産をバラバラに売却するかもしれないので、営業継続は約束できないと言われる可能性もあります。

もちろん、売り手と買い手の希望が合致しないなら、事業譲渡の合意をしなければ良いだけですが、売り手が債務超過となっている場合は、往々にして買い手に足元をみられ、不利な条件を飲まざるを得ない事態に陥ります。

(2) 詐害行為となる危険

首尾良く事業譲渡が成立しても、内容によっては、会社の債権者から「詐害行為」であると主張され、譲渡行為を取り消されてしまう場合があります。

会社が債務者である場合、会社に対する債権の引き当てとなっているのは、会社の総資産です。ただでさえ会社が債務超過となっているときに、事業譲渡の内容として会社資産を流出させてしまうことは、会社の資産を減少させる結果、会社債権者の利益を害する危険があります。

そこで、このような場合、会社債権者は個々の取引行為の取消を裁判所に請求することが認められているのです(民法4241項)。

(3) 会社法の規制を受ける

株主総会の特別決議

事業譲渡は、個別の資産譲渡を行う取引行為に過ぎず、売り手と買い手が合意する限り、その内容は自由に設定できることが原則です。

しかしながら、売り手となる会社の資産は出資した株主の共同財産ですし、事業を手放すことは会社の共同所有者である株主の利害に大きく関わりますから、株主の保護を図る必要もあります。

そこで、会社法では、①「事業の全部の譲渡」と、②「事業の重要な一部の譲渡で、かつ、譲渡する資産が会社の総資産額の20%を超える場合」には、事業譲渡に株主総会の特別決議による承認を必要としています(会社法4671項、309211号)。

この特別決議を経ずになされた事業譲渡は、何人との関係でも当然に無効とするのが判例です(※最高裁昭和61年9月11日判決)。

【「事業の全部の譲渡」「事業の重要な一部の譲渡」とは?】
ここに特別決議が要求される「事業の全部の譲渡」「事業の重要な一部の譲渡」とは何かが問題ですが、この点、最高裁(最高裁昭和40年9月22日判決)は次のとおり判示しています。
『一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に商法25条(※現行会社法21条に相当)に定める競業避止業務を負う結果を伴うもの』

競業避止義務を負う

事業を譲渡した会社は、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならないとされています(会社法211項)。

ただし、この競業避止義務は、当事者の特約で排除することも可能です。

4.まとめ

以上のように、債務超過の会社でも事業譲渡は可能ですが、会社法の規制に違反する危険があったり、契約の内容・条件面で折り合いがつかずに時機を失してしまったりすることは珍しくありません。

債務超過状態での事業譲渡を円滑に進めるには、まず、法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。

関連するコラム
19 23
【電話受付】平日9:30〜21:00 / 土日祝9:30〜18:30