法人破産をしたら、滞納中の税金・社会保険料はどうなる?
法人破産をするほどに財務状況がひっ迫している場合、会社が支払義務を負う税金や社会保険料が滞納状態になっていることも多いです。
このような税金・社会保険料に係る債務は、法人破産手続きの中で免責されるのでしょうか。
また、税金・社会保険料が免責された場合、代表者は何らかのペナルティを負う可能性はあるのでしょうか。
今回は、法人破産手続きの中で、未払いとなっている会社の税金や社会保険料の債務がどのように取り扱われるのかについて解説します。
1.法人破産と会社の債務について
法人破産は、債務の支払いが困難になるなど、財務状況が悪化した法人(会社など)を救済するための手続きです。
法人破産の手続きでは、会社が所有する財産が換価・処分され、その後債権者に対する配当が行われます。
債権者に対する配当をしても支払いきれなかった債務があった場合、最終的に残った債務は消滅することになります。
自己破産では、免責(=支払義務がなくなること)対象外となる債務が一部存在します(非免責債権|破産法253条1項)。
これに対して法人破産の場合、破産手続の終了により法人格が消滅することになるため、すべての債務が消滅するのが大きな特徴です。
2.法人破産手続きにおける税金・社会保険料の取り扱い
法人破産の手続きでは、税金・社会保険料に係る債権は、一般の債権に比べると優遇的に取り扱われます。
より具体的には、「財団債権」「優先的破産債権」「劣後的破産債権」のいずれかとして取り扱われます。
(1) 財団債権
破産手続開始前の原因に基づいて生じた税金・社会保険料の債権のうち、納期限が到来していないもの、または納期限から1年を経過していないものについては、財産債権として取り扱われます(破産法148条1項3号)。
財団債権は、破産債権に先立って弁済されます(同法151条)。
(2) 優先的破産債権
破産手続開始前の原因に基づいて生じた税金・社会保険料の債権のうち、財産債権に該当しないものについては、優先的破産債権として取り扱われます(国税徴収法8条、地方税法14条、厚生年金保険法89条、健康保険法182条、破産法98条1項)。
優先的破産債権は、破産債権の中ではもっとも優先的に配当が行われます(破産法194条1項1号)。
(3) 劣後的破産債権
破産手続開始後の原因に基づいて生じた税金・社会保険料の債権は、劣後的破産債権として取り扱われます(破産法97条4号、99条1項1号)。
劣後的破産債権は、配当において優先的破産債権・通常の破産債権に劣後するため(同法194条1項3号)、破産手続きにおける優先順位の低い債権です。
上記のルールに従い、税金・社会保険料が支払われてもなお未払いの残額がある場合には、その債務は消滅します。
個人が自己破産をする場合、税金や社会保険料は非免責債権とされていますが(破産法253条1項1号)、法人破産の場合には、非免責債権のルールは適用されません。
したがって、税金や社会保険料だけが残るということはなく、他の債権と同様にすべて消滅することになります。
3.代表者の責任
法人破産によって、会社の税金や社会保険料を支払わなくてよくなったとしても、その分を代表者が支払わなければならなくなるのではないかと心配される方もいらっしゃるかと思います。
会社とその代表者は、法律上別の人格とされています。
そのため、会社の税金や社会保険料を、代表者が当然に支払う義務を負うわけではありません。
ただし例外的に、以下のいずれかに該当する場合については、代表者が会社の税金や社会保険料を支払う義務を負うので注意が必要です。
(1) 代表者が無限責任社員の場合
合名会社の社員全員と、合資会社の一部の社員は「無限責任社員」に該当します(会社法576条2項、3項)。
無限責任社員は、会社に債務不履行が発生し、かつ会社財産をもって債務を完済できなかった場合、その債務全額を弁済する義務を負います。
したがって、法人破産によって会社が税金・社会保険料を支払わない場合、無限責任社員が代わりに納税・納付しなければなりません。
(2) 代表者が会社の納税義務等を保証している場合
税務署に対して納税の猶予や分納を申請した場合や、追徴課税が行われた場合などには、確実な徴税を行うため、会社の代表者に対して「納税保証書」の提出を求められることがあります。
納税保証書は、通常の債権に関する保証と同様に、会社が納税を怠った場合には、代表者が代わりに支払うことを誓約させるものです。
そのため、会社のために納税保証書を差し入れている税金については、法人破産により、代表者が会社の代わりに支払わなければなりません。
4.代表者が会社の税金・社会保険料を支払えない場合の対処法
前述のとおり、税金や社会保険料の債権は、自己破産の手続きにおいて「非免責債権」とされています(破産法253条1項1号)。
したがって、代表者が会社の税金・社会保険料を支払う義務を負う場合、仮に代表者が自己破産をしたとしても、税金・社会保険料の支払い義務を免れることはできません。
会社の税金や社会保険料を支払う義務を負ったものの、手元にお金がなく支払えない場合には、以下のいずれか(または両方)の手段を講じて対処しましょう。
(1) 納税の猶予を申請する
災害によって納税が困難となった場合には、災害によって損失を受けた日から1年以内に納期限が到来する税金等について、支払いを猶予してもらうことができます(国税通則法46条)。
納税の猶予は、税務署等の窓口で申請できます。
参考:新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方へ|国税庁
(2) 換価の猶予を申請する
納税等によって事業の継続や生活の維持が困難になるケースで、納税に関する誠実な意思があると認められる場合には、1年以内の期間に限り、税金・社会保険料の滞納処分を猶予してもらうことができます(国税徴収法151条、151条の2)。
換価の猶予も、税務署等の窓口で申請できます。
参考:新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方へ|国税庁
(3) 他の債務を債務整理する
他に借金などの債務を負っていて、そのせいで税金や社会保険料の支払いが難しくなっている場合には、税金・社会保険料以外の債務を債務整理によって軽減することが有効です。
債務整理には、主に任意整理・個人再生・自己破産の3つの手続きがありますので、弁護士にご相談のうえで、ご自身の状況に合わせた手続きをご選択ください。
5.まとめ
会社が法人破産した場合、会社財産の換価・処分と債権者への配当が行われた後、税金・社会保険料を含めたすべての債務が消滅します。
会社が負担する税金・社会保険料の債務については、法人破産により当然に代表者が責任を負わなければならないわけではありません。
しかし、代表者が無限責任社員である場合や、会社の納税債務等を保証している場合には、法人破産した会社に代わって税金等を支払わなければならないので注意が必要です。
もし会社の税金や社会保険料の支払いについて、代表者が代わりに責任を負う場合、自己破産によっても税金・社会保険料の債務を免責してもらうことはできません。
そのため、納税の猶予や換価の猶予を申請する、他の債務を債務整理するなどの方法を用いて急場を凌ぎましょう。
法人破産や代表者個人の債務整理については、一括して弁護士にご依頼いただくことが可能です。
依頼者のご状況に合わせて、法人・個人の両方について最善の対処法をアドバイスいたします。会社の債務を支払えずにお困りの経営者の方は、お早めに弁護士までご相談ください。