債権回収の手段としての即決和解
債権を回収する際に、債権者と債務者が話し合いをして、どのように弁済を行うかを決めることがあります。実務上、その内容は書面化しておくことが一般的です。
しかし取り決めた内容を債務者が実行しなければ、せっかくの和解や書面が絵に描いた餅になってしまいます。
そこで、和解の内容をより確実に実現させるための方法(手段)がいくつか存在します。その1つが「即決和解」です。
1.即決和解の概要
即決和解は、正確には「訴え提起前の和解」と言い、民事訴訟法275条に定められています。
前提として、即決和解をする前に、和解を行う当事者同士が和解の内容を決めておく必要があります。そのうえで簡易裁判所へ出頭し、正式に和解を成立させるのが即決和解です。
即決和解をすると、裁判所が「和解調書」を作成します。
和解調書を取得しておけば、債務者が義務を履行しないときに素早く強制執行(財産の差し押さえなど)を申立てることができます。
2.即決和解のメリット
即決和解には以下のメリットがあります。
(1) 即決和解の和解調書は債務名義になる
即決和解を経て得た和解調書は「債務名義」の一種です。
債務名義とは「強制執行をするために必要な書類」のことです。和解調書の他に、確定判決や仮執行宣言付支払督促なども債務名義に分類されます。
債務名義を得るには訴訟その他の法的手続きを経る必要がありますが、即決和解で和解調書を取得しておけば、訴訟などを経ずに強制執行の申立てができます。事実上、和解調書には確定判決などと同じ効果があるのです。
[参考記事] 債務名義とは|取得方法・時効など和解調書があればすぐ強制執行に踏み切れるだけでなく、債務者に「和解の内容に違反したら強制執行に踏み切るぞ」というプレッシャーを与えることができます。債務者が債務の履行に積極的かつ真剣になる効果が期待できるのです。
【早く・安く債務名義を入手できるメリットも】
訴訟などを経て債務名義を手に入れるには何ヶ月もかかります。しかし即決和解ならば、相手方との交渉さえまとまっていれば1~2ヶ月程度で手続きが終わります。
費用も割安です。東京地裁の場合、申立手数料2,000円と郵便切手645円(相手方1社につき)で済みます。公正証書を作るよりも安いです。
公正証書は早ければ数日で出来上がりますが、請求内容などによって作成費が高額になってしまいます。即決和解は公正証書に比べて時間がかかってしまいますが、金額を抑えることが可能なのです。
(2) 公正証書より利用範囲が広い
裁判などを経ずに強制執行の申立てをできる書類には、即決和解の和解調書の他に「公正証書」があります。
[参考記事] 債権回収における公正証書の重要性しかし、公正証書で強制執行をできるケースは「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」に限られています。
例えば「義務を履行できない場合は建物を明渡す」ことを求めたい場合、公正証書では明渡しに関する強制執行に着手できません。
一方、債務名義が和解調書であれば、建物の明渡しその他を請求する強制執行が可能となります。
3.即決和解を選択するべきケース
前述のメリットを理解しておけば、即決和解を選ぶべきケースが見えてきます。
(1) 不払いリスクを避けたいとき
相手が度重なる支払遅延などを起こしており、将来的に不払いになりそうな場合は、即決和解をしておきましょう。
義務の履行がない場合に強制執行をして債権を回収できます。
(2) 相手との合意ができそうなとき
相手との合意が見込めない場合は即決和解ができません。
相手との交渉が可能で、即決和解についての協力が得られる場合は、即決和解を検討する価値があります。
(3) 金銭の支払い以外のことを請求するとき
金銭の支払いについては、公正証書や支払督促、少額訴訟などを通じて強制執行に踏み切れます。
しかし、金銭の支払い以外の義務の履行については、通常の訴訟や即決和解などで得た債務名義でなければ強制執行の申立てができません。
通常の訴訟では時間がかかってしまうので、即決和解で債務名義を取得することをおすすめします。
4.即決和解に関する手続きの流れ
ここからは、即決和解の手順を紹介します。
(1) 督促と話し合い
即決和解の要件の1つに「争訟性があること」が挙げられます。何らかの契約をするときに即決和解をして、予め和解調書を作るようなことはできません。
そもそも和解が必要ということは、契約した義務の履行について問題が発生しているはずです。
まずは債務者に督促をして、義務の履行を促してください。
債務者が義務を履行できないのであれば、交渉の場を持って「どうすれば履行できるのか」などを話し合ってください。
「分割払いならできる」「◯月◯日なら払える」などの場合、事情に応じた妥協案を考えて、和解に向かって話し合いましょう。
(2) 和解条項案の作成
話し合いを経て合意し和解に至ったら、その内容を書面化します。この書面を「和解条項案」と言います。
和解条項案は即決和解の申立てに必要です。不備や不利な点が生じないよう、できれば弁護士に依頼して作成してもらうことをおすすめします。
(3) 申立て
債務者の住所または主たる営業所の所在地を管轄する簡易裁判所に即決和解の申立てを行います。
申立てをする裁判所や事件の内容によって異なりますが、概ね以下の書類が必要です。
- 申立書(裁判所に書式があることが多い)
- 和解条項案
- 契約書や督促に使った内容証明などのコピー
- 不動産の登記事項証明書など(不動産に関する事件の場合)
- 事故証明書など(交通事故などの場合)
- 履歴事項全部証明書(当事者が法人の場合。法務局で取得)
- 申立手数料や郵便切手(2,000円+645円(当事者の数によって変動))
必要書類については裁判所や弁護士に相談して揃えると安心です。
(4) 申立書の審査
裁判所で書類の審査が行われます。
足りない書類の追加や和解条項案の修正を求められることもあるので、適宜対応してください。
(5) 和解期日の指定
審査が終わった後は、和解期日の指定手続に入ります。
相手方と予定を調整して、裁判所に出頭できる日を裁判所に連絡してください。裁判所にもよりますが、連絡を入れる日から14日以上先の日を指定する必要があります。
このときには基本的に和解条項が確定されています。裁判所の指示に従って、和解条項や当事者目録を、裁判所から指定された数だけコピーして、速やかに裁判所へ提出してください。
なお、和解条項は和解調書の正本にも使用されます。ページ番号などを書き込んではいけません。
指定した期日は裁判所から相手に伝えられます。
(6) 和解期日
和解期日になったら、当事者の双方が裁判所に出頭します。
双方が和解条項に合意し、裁判所が相当と認めた場合にようやく和解が成立します。
その後、和解調書が作成され、原則的にその日のうちに和解調書が当事者双方に交付されます。
5.即決和解をするためのポイント
即決和解は債務者と和解しなければ手続きに入れません。最後に、債務者への対応について注意すべき点を紹介します。
(1) 相手が交渉に応じやすい雰囲気を作る
まずは相手を交渉のテーブルに着かせなければなりません。
書面やメールだけでただ督促していては、相手が連絡を無視して交渉にならない可能性があります。
督促状の送付などと並行して、「ご相談いただければ和解に応じる用意があります」とフォローしておきましょう(電話などが有効ですが、書面でも構いません)。
闇雲に法的処置を主張するより、相手が「相談したら支払い条件を少し変えてくれるかも…」と期待して、交渉に応じてくれる可能性があります。
(2) 譲れる部分は譲る
お互いの主張をぶつけあうだけでは和解に至りません。主張を譲らないと「では裁判で決着を付けましょう」と物別れに終わってしまい、手間も時間もお金もかかってしまいます。
お互いが妥協できる部分を見つけることが和解の要点です。全額回収にこだわらず、相手が現実的に実行可能な方法を見極めながら交渉を進めてください。
相手の事情に合わせて、例えば以下の案を検討してみることも必要です。
- 分割払いにする
- 支払期日を延長する
- 遅延損害金や利息の一部をカットする
- 金銭の支払いではなく代物弁済(土地や高価な品物での弁済)を認める
(3) 弁護士に依頼する
法律の専門家が交渉の場に同席していれば、和解内容が法律的に問題のないものであることが相手に伝わります。
また、法律家の言うことであれば、相手が素直に従う可能性も出てきます。結果的に交渉がスムーズに進むことも多いです。
弁護士がいれば交渉の場で即決和解の正確な説明もしてくれますし、その後の和解条項案の作成や即決和解の手続きまでしてくれます。弁護士に依頼するメリットは非常に大きいです。
6.即決和解のことなら弁護士へ
即決和解は和解内容を債務名義にする手続きです。債務名義があれば強制執行に踏み切れるため、債権回収が容易になります。
しかし債務者との交渉や裁判所での手続きなど、即決和解を成立させるために超えなければならないハードルはいくつもあります。
即決和解は弁護士にご依頼ください。和解条項案の作成から裁判所への出頭まで、様々なことをサポートいたします。
弁護士法人泉総合法律事務所は債権回収に力を入れている事務所です。皆様の大切な債権を回収するために、ぜひ当事務所をご利用ください。