デイサービス・特養の利用料を滞納する利用者への対処法
デイサービス・特別養護老人ホームの事業を経営する方は、各利用者から毎月利用料を回収しなければなりません。
しかし、多くの利用者の中には、一定の割合で利用料を滞納する人もいるでしょう。
滞納者が多い状況では、事業の経営に深刻な影響を及ぼすおそれもあるので、早急に債権回収の対応を行いましょう。
この記事では、デイサービス・特別養護老人ホームの利用料が滞納された場合に、どのように債権回収を図るべきかについて解説します。
1.滞納利用料を放置することのデメリット
「お金に余裕ができたら払います」といった利用者の言葉を信用して、利用料を払ってくれるまで待とうとする事業者の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、滞納された利用料を回収せずに放置していると、債権回収はどんどん難しくなってしまいます。
(1) 利用者の支払い意思が減退する
事業者が滞納された利用料の取り立てを行わないと、利用者には「払わなくてもいいのかな」というような気持ちが芽生えてくるでしょう。
滞納状態が当たり前になってしまうことにより、利用者の罪悪感も薄れていってしまうのです。
また、滞納利用料が積み重なることで高額になると、完済できるイメージが持てなくなり、ますます利用者の支払い意思は減退してしまいます。
利用料を任意に支払ってもらう可能性を残すためには、滞納利用料が少額の段階から、こまめに支払いを促すことが大切です。
(2) 消滅時効が完成してしまう場合がある
滞納利用料に関する債権は、一定期間が経過すると、時効完成により消滅してしまいます。
2020年4月1日に施行された現行民法では、消滅時効は、以下のいずれかの期間が経過した時点で完成します。
①権利を行使できることを知った時から5年間
②権利を行使できる時から10年間
消滅時効の完成を阻止するには、時効の「完成猶予」または「更新」の効果を発生させなければなりません。
滞納された利用料を回収するには、消滅時効が完成しないように、早い段階で請求を行うことが大切なのです。
[参考記事] 債権回収の消滅時効は?時効期間・完成阻止の方法2.滞納された利用料の回収方法
滞納された利用料を回収するための方法としては、以下のパターンが挙げられます。
(1) 内容証明郵便による催告を行う
口頭などで支払いを促しても利用料が支払われないようであれば、内容証明郵便による催告を行いましょう。
内容証明郵便を送付すると、差出人・受取人・差出日・郵便物の内容を、郵便局が証明してくれます。
特に弁護士名義で内容証明郵便を送付した場合、債権回収への本気度が債務者(利用者)に伝わり、利用料が任意に支払われる可能性が上がるでしょう。
また、内容証明郵便による催告を行うと、消滅時効の完成が6か月間猶予される効果もあります(民法150条)。
(2) 裁判所に支払督促を申し立てる
利用者が滞納利用料を一向に支払わない場合には、裁判所に支払督促を申し立てることも考えられます。
参考:支払督促|裁判所
支払督促を申し立てると、裁判所から利用者に対して、滞納利用料を支払うべき旨の督促が行われます。
支払督促を債務者が受領してから2週間以内に、利用者から異議申立てが行われない場合には、裁判所に仮執行宣言の申立てをすることにより支払督促に仮執行宣言が付され、事業者は、仮執行宣言付支払督促を債務名義として、強制執行手続きを申し立てることができるようになります(民事執行法22条4号)。
支払督促は、迅速かつ簡易な手続きにより、強制執行まで至ることができる可能性がある点がメリットといえるでしょう。
(3) 裁判所に訴訟を提起する
支払督促(または仮執行宣言付支払督促)に対して、債務者から適法な異議が申し立てられた場合には、自動的に訴訟手続きへと移行します。
また、支払督促を利用せずに、直接利用者に対して訴訟を提起することも可能です。
訴訟では、滞納利用料に関する債権の存在を証拠により立証しなければなりません。
そのため、主張書面や証拠資料の準備にかなりの手間がかかります。
また、訴訟手続きは長期化しやすく、場合によっては半年以上の期間がかかることもあります。
こうした点を踏まえると、訴訟を提起する際には、弁護士に依頼することがお勧めです。
(4) 民事保全を支払督促・訴訟とセットで利用する
支払督促や訴訟によって債権が確定した後は、強制執行によって債権の回収を図ることになります。
しかし、支払督促や訴訟が進んでいるうちに、利用者が預貯金などを浪費してしまい、強制執行に移る際には財産が残っていないという事態も生じ得るところです。
そこで、支払督促や訴訟を利用する際には、裁判所に民事保全を併せて申し立てることが効果的です。
利用料債権を被保全債権として民事保全の申立てを行った場合、裁判所が審査の後、利用者の財産について「仮差押命令」を発します(民事保全法20条1項)。
たとえば、利用者の預貯金債権について仮差押命令が発せられた場合、金融機関は利用者に対して、預貯金の払い出しをすることが禁止されます(同法50条1項)。
[参考記事] 債権回収に向けた仮差押えとは?このように、前もって利用者の財産の流出を防止することで、支払督促・訴訟の終了後に強制執行をする財産を確保できるのです。
(5) 強制執行を行う
仮執行宣言付支払督促や、訴訟の確定判決は、強制執行を申し立てるために必要な「債務名義」として用いることができます(民事執行法22条1号、4号)。
事業者は、債務名義を獲得した後、裁判所に対して強制執行を申し立て、利用料の回収を図りましょう。
なお、強制執行を申し立てる際には、利用者の所有する財産のうち、どの財産に対して強制執行するかを特定する必要があります。
もし利用者がどのような財産を所有しているか把握できない場合は、「財産開示手続」(同法196条以下)や「第三者からの情報取得手続」(同法204条以下)を利用しましょう。
財産開示手続を申し立てると、利用者は裁判所において、自らが所有する財産について陳述することを義務付けられます(同法199条1項)。
しかし、利用者本人に陳述を義務付けるだけでは、意図的な財産隠しなどが行われる可能性も否定できません。
そこで有効になり得るのが「第三者からの情報取得手続」です。
第三者からの情報取得手続を利用すると、裁判所が官公庁や金融機関に対して、利用者が所有する不動産や預貯金債権に関する情報提供を命じます。
その結果、強制執行の対象になり得る利用者財産を把握することができるのです。
強制執行の申立てや、それに伴う財産開示手続・第三者からの情報取得手続の申立てについては、弁護士にご相談ください。
[参考記事] 強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど [参考記事] 財産開示手続とは|流れは?無視された場合はどうする?3.利用料回収の弁護士費用の相場は?
当事務所へデイサービス・特別養護老人ホームの利用料の回収をご依頼いただく際の費用は、以下のとおりです。
着手金
請求金額 | 着手金の額 |
---|---|
300万円以下の部分 | 請求額の8.25%(税込) ※ただし、交渉事件・保全事件の着手金の最低額は、22万円(税込)、訴訟事件の着手金の最低額は、33万円(税込)。 |
300万円を超え、3,000万円以下の部分 | 請求額の4.95%(税込) |
3,000万円を超え、3億円以下の部分 | 請求額の2.75%(税込) |
3億円を超える部分 | 請求額の1.65%(税込) |
成功報酬
経済的利益の額 | 成功報酬 |
---|---|
300万円以下の部分 | 経済的利益の17.05%(税込) |
300万円を超え、3,000万円以下の部分 | 経済的利益の10.45%(税込) |
3,000万円を超え、3億円以下の部分 | 経済的利益の6.05%(税込) |
3億円を超える部分 | 経済的利益の3.85%(税込) |
なお、債権回収の弁護士費用は、各弁護士によって異なります。
弁護士費用の仕組みについては、初回のご相談時に詳しくご説明いたしますので、お気軽に弁護士へご相談ください。
4.債権回収が滞った場合は弁護士に相談を
利用者一人当たりの月々の利用料は少額であっても、滞納の期間が長くなったり、複数の利用者が利用料を滞納したりしているケースでは、事業者の資金繰りに与える影響も大きくなってしまいます。
そのため、早い段階で債権回収に向けて行動を始めることが大切です。
弁護士にご相談いただければ、内容証明郵便による支払い催告から、裁判手続きを通じた請求・強制執行に至るまで、債権回収を一括してサポートいたします。
デイサービス・特別養護老人ホームの利用料滞納にお悩みの事業者の方は、ぜひお早めに弁護士へご相談ください。