不良債権とは?不良債権比率や債権回収方法などを解説
貸付金・売掛金などをはじめとして、企業は他社に対して債権を取得するケースが多いです。
このような債権が回収不能となって「不良債権」と化してしまうと、企業の資金繰りは大幅に悪化します。
自社の不良債権比率が高まってきた場合、経営危機に繋がりかねないので、早急に債権回収などの対策が必要です。
今回は、企業の抱える「不良債権」とは何かについて、不良債権比率の危険ラインや、不良債権の回収方法・会計処理などについて解説します。
1.不良債権とは?
「不良債権」とは、回収が不可能または困難になった債権を意味します。
法律用語ではなく、一般用語として広く用いられています。
「不良債権」という言葉がもっともよく用いられるのは、金融機関の破綻に関連する文脈においてでしょう。
金融機関は、数多くの一般企業に対して貸付金などの債権を有しています。
もしも景気の急激な悪化が発生すると、債務者からの支払いが一挙に滞り、銀行の有する債権のうちかなりの割合が「不良債権」と化してしまうのです。
金融機関のみならず、一般企業についても、他社に対して有する債権が回収不可能または困難となった場合、その債権を「不良債権」と呼ぶことがあります。
どの程度回収可能性が悪化したら不良債権として取り扱うべきかについては、特に一義的な基準が存在するわけではありません。
この点、一定の参考になるものとして、金融機関の債権管理方法があります。
金融機関は、貸出債権を「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の各ランクに分けて管理しています。
このうち「要管理先」以下のランクに相当する債権の残高を、不良債権として公表しているのです。
したがって、破綻の具体的な危険が生じるまでには至っていないとしても、信用状況の悪化について特に注視する必要がある企業を債務者とする債権が、不良債権に当たると整理すべきでしょう。
一般の事業会社が他社に対して有する債権の例としては、以下のものが挙げられます。
- 貸付金
- 売掛金
- 受取手形
- 立替金
- テナント賃料 など
これらの債権は、債務者の財務状況次第で、常に不良債権化するリスクを内包しているのです。
したがって、債権回収が完了するまで油断は禁物であり、少しでも不良債権化の兆候が見えた時点で、早急に対応を検討する必要があります。
2.不良債権比率とは?
債権回収状況の良・不良を示す指標として、「不良債権比率」が用いられることがあります。
本来は銀行経営の健全性を表す指標ですが、企業の抱える不良債権リスクを推し量るための考え方として参考になるでしょう。
(1) 不良債権比率の計算式
不良債権比率は、以下の計算式によって求められます。
不良債権比率=当該企業が有する不良債権の総額÷当該企業が有する債権の総額×100
つまり、銀行(企業)が有する債権全体のうち、どの程度の割合の債権が不良債権に当たるかを表すのが「不良債権比率」なのです。
不良債権比率が高い銀行は、貸倒れによってキャッシュ不足に陥り、破綻するリスクが高い状態です。
企業に置き換えて考えると、不良債権比率が高い企業は、将来的に貸倒れによる損失を計上し、資金繰りに窮するリスクが高いといえます。
(2) 不良債権比率の危険ラインは?
不良債権比率が何パーセント以上になると経営危機が生じるか、という疑問に対する明確な答えは存在しません。
入ってくるお金が出ていくお金よりも多ければ経営は成り立ちますが、このお金の出入りの健全性を不良債権比率だけで測ることはできず、債権額・固定費の金額などを総合的に分析する必要があるからです。
不良債権比率を経営危機に関する判断指標として用いる場合には、画一的な基準を求めるのではなく、自社のビジネススキームを十分に分析したうえで、「自社にとっての」危険水準を独自に設定する方が有益でしょう。
3.不良債権を回収するための方法
自社の有する債権が不良債権化した場合、債務者の財務状況がこれ以上悪化する前に、早期に債権回収を図る必要があります。
不良債権を回収するためには、主に以下の方法が考えられます。
(1) 内容証明郵便などで支払いを催告する
郵便局が差出人・受取人・郵便物の内容を証明してくれる「内容証明郵便」は、債権回収の際に、債務者に対して支払い催告を行うためのもっともポピュラーな方法です。
内容証明郵便によって支払い催告が債務者に届けられると、債権回収の本気度が債務者に伝わり、債務が任意に支払われる可能性が高まります。
また、内容証明郵便による支払い催告には、債権の時効完成を猶予させる効果も認められています(民法150条1項)。
内容証明郵便を送付する場合、謄本作成に関する書式の厳格なルールが存在しますので、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
(2) 裁判所を通じて支払督促を行う
裁判所に支払督促を申し立てると、裁判所から債務者に対して、債務を支払うように督促してもらえます。
[参考記事] 支払督促とは|やり方などをわかりやすく解説支払督促に対しては、債務者には異議申立ての機会が2回(支払督促に対する異議申立て、仮執行宣言付支払督促に対する異議申立て)与えられています。
適法な異議申立てがあった場合は訴訟に移行しますが、期間内に適法な異議申立てがなく、支払督促に仮執行宣言が付されると、直ちに強制執行の手続きをとることができます。
(3) 訴訟を提起する
支払督促について、債務者が異議を申し立てた場合には、訴訟に場を移して債務の支払いを求めましょう。
また、支払督促の申立てを経ることなく、直接裁判所に対して訴訟を提起することも可能です。
訴訟では、債権の存在などを証拠によって立証しなければなりません。
訴訟手続きへの対応は、一般の方には非常に困難で骨が折れるため、弁護士への相談をお勧めいたします。
(4) 強制執行を行う
強制執行では、債務者が有する不動産・動産を強制的に換価し、または債務者が有する債権を取り立てるなどして、債権の満足を図ります。
先行する支払督促や訴訟の申立てなどとセットで、強制執行についても弁護士にご依頼いただくとスムーズです。
[参考記事] 強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど【状況によっては交渉に応じる】
債務者は、債権者に対して、債務の減額に応じてくれるよう、交渉を持ちかけてくることがあります。
強硬に債権回収を行うあまり、債務者が破産してしまった場合、債権をほとんど回収できなくなってしまいます。こうした事態は、債権者にとっても好ましくありません。
そのため、債務者の資力が十分でないと判断される場合には、交渉に応じ、債務の減額や支払期日の延長を認めてあげるのも一つの選択肢です。債務者を破産に追い込んでしまうよりも、減額後の債務をきちんと支払ってもらう方が、債権者にとってもプラスになるでしょう。
4.回収できない不良債権の会計処理について
(1) 「貸倒引当金繰入」として、一定割合を損金算入する
債務の返済に大きな問題が発生している、または発生する可能性が高い債権は、債権額に対して一定の割合の金額を「貸倒引当金繰入」として損金算入することが認められます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入 | 2,000,000 | 貸倒引当金 | 2,000,000 |
実際に債務不履行が生じていない状態でも、回収不能のリスクに相当する金額を、前倒しで経費化できるのが特徴です。
(2) 「貸倒損失」として、全額を損金算入する
実際に回収不能となってしまった債権については、「貸倒損失」として、その全額を損金算入できます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒損失 | 2,000,000 | 売掛金 | 2,000,000 |
貸倒れに関するリスク・損失を適切に経費化することで、不良債権に関する損失を軽減できますので、適宜弁護士・税理士などに相談しながら対応してください。
5.不良債権についての対応はお早めに弁護士へ相談を
取引先の信用状況が悪化し、自社の有する債権が不良債権化した場合には、速やかに債権回収へと着手することが大切です。
放っておくと、債務者の財務状況は悪化の一途をたどり、最悪の場合、破産によって全く債権を回収できなくなってしまう事態になりかねません。
債権回収を迅速に行うためには、内容証明郵便の送付・支払督促の申立て・訴訟提起など、さまざまな手段を効果的に活用する必要があります。
弁護士にご相談いただければ、ご状況に応じて、もっとも有効と考えられる債権回収の方法をご提案いたします。
取引先の信用状況悪化など、不良債権に関するリスクにお悩みの経営者の方は、お早めに弁護士までご相談ください。