家賃滞納者に対しての差押え
賃貸物件の経営者・大家さんには、家賃滞納のリスクが常につきまといます。
滞納された家賃は、裁判所で差押えの手続きをすることで回収できます。
しかし、差押えをする前に行うべきことがありますし、注意点もいくつか存在します。
本記事では、家賃滞納者に対して差押えを行う方法や注意点をご紹介します。
1.家賃を滞納している債務者への取り立て方法
まず、差押えの前に「家賃の取り立て」を行う必要があります。
ここでは、取り立ての方法とともに、やってはならない取り立て方法についても言及します。
(1) 管理会社や家賃保証会社と契約している場合
多くの大家さんは、賃貸物件を管理する管理会社と契約していると思います。
そこで、家賃滞納の事実を管理会社に連絡して、督促を依頼してください。
管理会社に任せても家賃の滞納が続く場合は、管理会社が入居者とコンタクトを取れているかなどを確認しましょう。管理会社に家賃滞納の理由や支払い可能となる予定日などを質問するのも良いです。
なお、一定期間家賃の滞納が解決しない場合、管理会社から家賃保証会社や入居者の連帯保証人に連絡が行きます。連帯保証人や家賃保証会社が払ってくれればひとまず安心です。
しかし、同じ入居者が居座り続ける限り、家賃滞納のリスクに晒されます。賃貸借契約の解除を視野に入れた対応を検討してください。
(2) 大家さん自身で取り立てをする場合
管理会社や保証会社と契約しておらず、自分で賃貸物件の管理をしている大家さんもいるはずです。
そういった方は、以下の方法で取り立てを行ってください。
①電話やメールで督促
まずは、電話やメールで相手の状況を確認してください。うっかり払い忘れただけであればこの時点で解決できます。
電話をかけても折り返しがない、メールをしても音沙汰がない場合は、無視されている可能性があります。何回か督促を続ける必要があるでしょう。
②訪問して督促
賃貸物件が近くにある場合は、直接訪問する方法もあります。
郵便受けに郵便物が溜まっているなどの異常がない場合は、普通に暮らしている可能性が高いです。呼び出しに応じてもらえれば、その場で交渉ができます。
相手が出てこない場合は単に留守をしているか、居留守を使われている可能性があります。出直すか、電話やメールによる督促を継続してください。
③郵便(内容証明郵便)で督促
普通の郵便物で督促を行ってもいいですが、差押えを見据えている場合は「内容証明郵便」を利用して督促してください。
内容証明郵便は裁判の証拠にも使える信頼性の高い書類です。作成は弁護士に依頼することをお勧めします。
【督促時にやってはいけないこと】
執拗な督促や相手の権利を侵害するような督促をすると違法行為になってしまい、相手から損害賠償請求をされるかもしれません。
貸金業法21条には取り立てに関する禁止行為が記載されています。大家さんは貸金業者ではないので貸金業法の適用を受けませんが、違法行為を避ける目安として貸金業法の範囲内で督促を行った方が無難です。以下の行為はしないように気をつけてください。
・早朝や深夜の訪問と電話(20時から翌7時)
・同じ日に何度も電話や訪問をする
・張り紙や立て看板などで督促
・相手の職場など、居宅以外の場所に連絡
・連帯保証人以外に督促
・無断入室や室内の物の撤去・没収
・鍵の交換(※賃貸借契約書に「家賃を滞納したら鍵を交換する」などの条項があっても、勝手に鍵を交換してはいけません。裁判でこの条項が無効と判断され、損害賠償請求が認められた事例があります。(大阪簡裁平成21年5月22日判決))
2.差押えとは
督促しても相手からの支払いがない場合は、強制執行によって相手の財産を差押え、その財産から家賃を回収するのが現実的な方法です。
ここからは、差押えに必要なものや、差押えの種類について解説します。
(1) 差押えに必要なもの
最低でも以下の3つが必要です。
- 債務名義
- 相手の財産の情報
- 費用
債務名義にはいくつかの種類がありますので、詳しくはリンク先をご覧ください。
[参考記事] 債務名義とは|取得方法・時効などまた、差押えの前に、相手のどの財産を差押えるか特定する必要があります。
「財産開示手続」を利用するなどして相手の財産の情報を集めてください。
更に、裁判所に納める費用と弁護士報酬(弁護士に依頼する場合)が必要です。
差押える財産の内容によっては何十万円もかかることがありますので、あらかじめ準備をしておきましょう。
(2) 差押えの種類
「差押え」は、差押える対象の財産の種類によって3つに分類されます。
①動産執行
家賃滞納者の動産を差押えて競売にかけ、落札価格から家賃を回収する方法です。
強制執行の日に相手の居室を執行官らと訪問し、室内の物を差押えます。鍵がかかっていても業者が開錠してしまいます。
差押えから競売までの手続きが早いため、数ヶ月で家賃を回収できるのが利点です。
ただし差押えが禁止されている財産(生活必需品など)は差押えできません。
物件内にある品物の大半が生活必需品の場合、ほとんど何も差押えできないおそれがあります。
[参考記事] 動産執行とは?|費用や流れ②不動産執行
滞納者が所有する不動産を差押えて競売にかけ、落札価格から家賃を回収する方法です。
不動産は高額で落札されやすいため、滞納された家賃を全額回収できる可能性が高いです。
しかし、不動産の現況確認や不動産鑑定士の評価などが必要なため、手続きの期間が半年から1年にも及んでしまいます。早期に家賃を回収することはできません。
何より問題なのは費用です。裁判所によりますが、鑑定その他の人件費がかかるので、家賃の滞納額よりも費用の方が高くなる可能性があります。
③債権執行
滞納者が持つ債権を差押えます。給与債権や銀行への預金債権がその代表でしょう。
相手の預金口座を差押えれば口座残高から家賃を回収できます。現金で回収できるため、競売を経る手間がありません。
給与債権を差押えれば、給与の手取り額の4分の1相当額が自動的に差し引かれます。滞納額に届くまで継続的に支払いを受けられるため、給与債権を差押えるメリットは大きいです。
なお、相手が年金や生活保護費を受給している場合、年金や生活保護の受給権は差押えできないものの、一旦口座に振り込まれたお金は預金債権となります。
この預金債権に関しては差押え可能です。
(3) 差押えを行う方法
実際に差押えを行う方法や必要書類については、リンク先の記事をご確認ください。
動産執行、不動産執行、債権執行の各ケースについて説明があります。
3.家賃滞納を原因に賃貸借契約を解除できる?
「家賃を払わない賃借人と賃貸借契約を解除して、強制退去させたい」と考える大家さんもいるはずです。
しかし大家側から賃貸借契約を解除するには、「お互いの信頼関係が破壊されていると言える程度の債務不履行」が必要です。これを「信頼関係破壊の法理」と言います。
様々な判例から、3ヶ月以上の家賃滞納がなければ「信頼関係が破壊されている」と認めてもらえないことが多いです。
ちなみに公営住宅法第32条には「入居者が家賃を3ヶ月以上滞納したときは明渡しを請求することができる」という規定があります。市営住宅などでも3ヶ月が信頼関係破壊の目安とされていることがわかります。
なお、賃借人が自主的に退去してくれればよいのですが、任意の建物明渡しがなされない場合は、建物明渡請求訴訟を提起する必要があります。
[参考記事] 家賃滞納トラブルを裁判で解決する方法4.家賃の滞納でお困りの大家さんは弁護士へ!
家賃の滞納は督促で比較的早期に解決することもありますし、滞納が長期化することもあります。
「滞納されている家賃債権を回収したい」「長期の滞納者に明渡請求をしたい」という方は、ぜひ泉総合法律事務所にご相談ください。内容に応じて最も効率の良い方法をご提案します。