債務不履行とは?
債務とは「契約によって生じた義務」です。
契約をすると「借りたお金を期日通り返済する」「契約通りの品質の商品を期日までに指定の数だけ納入する」などの義務が発生します。
契約によって生じた義務を実際に行うことを「履行」と言います。不履行とはその反対で、「実際に行わない」という意味です。
つまり債務不履行を分かりやすく言い換えると「契約した義務を行わないこと」となります。
債務不履行を起こすのは基本的に債務者ですが、実は債権者の方こそ、債務不履行という言葉が持つ意味や内容に関する知識を持っておく必要があります。
本記事では「債務不履行」について、様々な角度から解説します。
1.債務不履行の概要
債務の履行は一方にのみ課されるものではありません。例えば「ある商品を売る」「代金を支払う」という契約では、売主に当該商品を買主に譲り渡す義務が課せられますが、もう一方の当事者である買主には代金を支払うという義務が課せられます。
(1) 債務不履行に関する民法の定め
法律には、債務不履行についての定めがあります。
民法第415条には「債務不履行による損害賠償」についての規定があります。要約をすると以下の通りです。
- 債務者が債務の本旨に従った履行をしないか履行ができない場合、債権者はそれによって生じた損害の賠償を請求できる
- ただし債務不履行について債務者に帰責事由がない場合は、上記の限りでない
- 債権者は以下の場合、債務の履行を請求する代わりに損害賠償を請求できる
1.債務の履行が不能なとき
2.債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
3.(債務が契約によって生じた場合)その契約が解除されるか、債務不履行のせいで契約の解除権が発生したとき
また、民法第416条には「損害賠償の範囲」が定められています。
- 債務不履行に対する損害賠償請求は、債務不履行で通常生じる損害の賠償をさせることを目的とする
- 特別の事情で発生した損害でも、当事者がその事情を予見すべきだった場合、債権者が損賠の賠償を請求できる
さらに民法第417条には「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める」という規定があります。
上記から、債務者に帰責事由があって債務不履行が発生した場合、債権者は生じた損害の範囲で、現金による損害賠償請求ができることがわかります。
ちなみに帰責事由の立証責任は債務者にあります。債権者から責任を追及された場合、債務者は「こういった事情で債務不履行の原因は自分にはありません」と立証しなければなりません。
(2) 契約の解除は可能?
契約の解除については民法第541条に規定があります。これも要約します。
- 当事者の一方が債務を履行しない場合、相手方が相当の期間を定めて履行の催告をしても期間内に履行がないときに契約の解除権が発生する
- ただし履行しないまま期間を過ぎたことによる影響が社会通念上軽微な場合、解除権が発生しないこともある
上記から、契約解除には「相手の債務不履行」と「期限を定めた事前の催告」が必要であることがわかります。また、履行が数日遅れた程度では大きな影響がない場合は、契約を解除できないことがあることもわかります。
さらに、民法第542条には、催告なしで直ちに契約解除できるケースが列挙されています。
- 債務の全部の履行が不能なとき
- 債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に示したとき
- 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
- 特定の日時又は一定の期間内に履行がないと目的が果たせない契約であるとき
- 催告しても債務者が履行する見込みがないことが明らかであるとき
ポイントは「契約の解除に債務者の帰責事由は不要」ということです。
なお、債務不履行の原因が債務者でなく債権者にある場合、債権者側から契約の解除ができません。(民法第543条)
2.債務不履行の3類型
債務不履行は以下の3類型に大別されています。
(1) 履行遅滞
履行が可能なのに履行期までに履行しないことを指します。
以下の要件を満たすと履行遅滞と認められます。
- 履行期に履行が可能であった
- 履行期を過ぎても債務の履行がなかった
- 債務者に帰責事由があって履行がなかった
- 履行がなかったことについて違法性がある
ここでいう「違法」とは、刑罰などに関係なく、履行しないことについて法律上正当な理由がない場合も含みます。
履行遅滞になった場合、債権者は以下の手段を実行できます。
- 履行の請求
- 損害賠償請求
- 契約の解除
例えば「契約を解除して損害賠償請求」や「履行を請求しつつ損害賠償請求」など、複数を同時にすることも可能です。
(2) 履行不能
債務者の故意や過失で履行ができなくなった状態です。以下の要件を満たしたときに成立します。
- 債務の成立後に債務の履行が社会通念上不可能になった場合
- 債務者に帰責事由があることで履行できなくなった
- 履行不能が違法
1つ目の要件は、例えば建物の賃貸借契約後に、貸主が過失でその建物を全焼させてしまったケースが当てはまります。建物が消失して貸すことができないため、この場合は履行不能となります。
なお、金銭債務は基本的に履行不能が認められません。お金を払う契約の場合、債務者本人はお金を持っていなくても、世間にはお金が流通しています。約束したお金を用意できないというのは債務者の個人的な事情に過ぎないため、金銭債務は履行不能が成立せず、履行遅滞という扱いになります。
履行不能が成立した場合、債権者が契約を解除するかどうかに関わらず、損害賠償を請求できます。
(3) 不完全履行
例えば商品を100個納品すると契約したにも関わらず80個しか納品がない場合などは、不完全履行に該当します。
不完全履行は以下の要件が揃った場合に成立します。
- 債務の履行はあったが不完全
- 履行が不完全であることについて債務者に帰責事由がある
- 不完全な履行がなされたことが違法である
金銭債務については履行不能と同じ理屈が当てはまるため、不完全履行が成立しません。
不完全履行が成立した場合、債権者の対応は2つに分かれます。
①追完が可能な場合
追完とは「追加で納品する」という意味です。
先の事例で言えば、100個中80個しか商品を納品されていなくても、追加で20個納品することを、債権者が債務者へ請求できます。
追完可能な場合は履行遅滞と同じ効果が生じます。
②追完が不可能な場合
例えばクリスマスケーキを100個発注したのに80個しか納品されないケースです。クリスマス後に追完されてもクリスマスケーキとして販売することはできないため、追完しても債権者は商機を逃したことになります。
この場合は履行不能と同じ効果が発生します。
3.債務不履行発生時の債権者側の対応
債務不履行が起きた場合、債権者はどのような対応を行えばいいのでしょうか?
(1) 督促
まずは督促を行います。特に追完で目的が達成されるタイプの取引であれば、督促して追完してもらう意義は大きいはずです。
督促して履行がない場合でも、期限を定めて督促を行っておけば、契約解除や遅延損害金の請求などをしやすくなります。
督促の際は以下の3つを守りましょう。
- 期限を定めて履行を督促する
- 遅延損害金などについて言及する
- 書面やメール、内容証明などで督促の証拠が残るようにする
特に内容証明は裁判の証拠になり、消滅時効の成立を一時的に防ぐこともできるため、非常に効果が高いです。
(2) 仮差押えなどの保全手続き
たとえ裁判を起こしても、相手に財産がなければ債権を回収できません。
相手が自分の意思で財産を動かせないように、事前に仮差押えなどを行いましょう。
例えば、銀行口座を仮差押えすれば、相手の銀行口座は事実上凍結されます。
仮差押えについて詳しいことを知りたい方は以下のコラムをご覧ください。
[参考記事] 債権回収に向けた仮差押えとは?(3) 裁判所を使った債権回収手続き
裁判や支払督促などの法的措置を実行し、最終的には強制執行によって債権を回収します。
手続きについては、下記のコラムをご参照ください。
[参考記事] 強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど4.債務不履行でお困りの方は弁護士へ
債務不履行は債権者に大きな影響を及ぼします。契約書に損害賠償請求や契約解除など債務不履行の発生に備えた対策を盛り込んでおくことも大事ですが、いざというときには弁護士に相談して適切な対策を行うことが大切です。
弁護士法人泉総合法律事務所は、様々なケースにおける債権回収を行っております。一見難しそうな内容でも、まずはお気軽にご相談ください。