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強制執行

債権差押における転付命令とは

債権回収のための強制執行のひとつに、債務者の有する「債権」を差し押える債権執行があります。

差し押さえた債権から金銭を回収する主な方法は、①取立権を行使することと、②裁判所から転付命令を発してもらうことです。

実務では、特に預貯金債権を差し押さえる場合に、転付命令を利用するケースが多いとされています。

この記事では転付命令とはどのような制度か、そのメリット、デメリットなどを解説します。

1.差押え債権の換価方法

債権者Aが、債務者Bが第三債務者Cに対して有する金銭債権(被差押債権)を差し押さえた場合、債権者Aは被差押債権を換価し、そこから弁済を受けて強制執行の目的を達することになります。
換価とは、差し押さえた財産を現金化することです。

もっとも、差押え対象が動産や不動産の場合は、これを売却して現金化できますが、一般的な債権には市場がなく、これを売却して現金化することは通常は困難です。

しかも、被差押債権が金銭債権であれば、売却よりも第三債務者に支払ってもらった方が簡明です。

そこで、被差押債権の現金化には、主に2つの方法が利用されます。
ひとつは「取立権」の行使であり、もうひとつが「転付命令」の利用です(換価方法はこれだけではありませんが、主に利用されているのはこの2つです)。

(1) 取立権の行使

取立権の行使は、債権者Aが直接に第三債務者CからBの債権(被差押債権)を取り立てるものであり、債権差押命令が第三債務者に送達された日から1週間(給与債権などの場合は4週間)を経過すると認められます(民事執行法155条1項及び2項)。

これは、あくまでBが有する債権をBの代わりにAが取立てるだけのことで、被差押債権の債権者がAになるわけではありませんが、Cが取立に応じて支払いを受けることができたならば、その限度でAの差押債権は弁済されたものと扱われます(同法155条3項)。Cが支払に応じない場合は、AはCに対し別途取立訴訟を提起するなどの必要があります。

(2) 転付命令

転付命令は、平たく言うと、「Bの有する被差押債権をAの債権にしてしまう」制度です。これは債権による「代物弁済」とも呼ばれます。

代物弁済とは、債務者が本来の債務に「代えて」、他の給付を行って弁済とし、債務を消滅させることです(民法482条)。

例えば、甲が乙に対して100万円の貸金債権を有している場合に、甲乙の合意によって、100万円に「代えて」、乙の所有するダイヤモンドを甲に渡すことで、貸金債権が弁済されたものとするのが代物弁済です。

甲と乙は、このダイヤモンドのやりとりで本来の弁済に代えると合意したのですから、仮にダイヤの価値が金80万円しかなくとも、甲は不足額を乙に請求することはできません。

このダイヤを金銭債権に置き換えたものが転付命令です。

転付命令は、被差押債権である「BのCに対する債権」を、裁判所の命令によって強制的にAに移転させ、「AのCに対する債権」にしてしまうのです。Bが有していたCに対する債権という財産を、本来の債務の弁済に「代えて」、丸ごとAに移転してしまうことで代物弁済とするのです。

Bの債権を、Aに「移転する」ことを、法文では「転付」と表現しています。

ただ差押え対象が動産の場合と異なり、金銭債権の場合は、例えば「BのCに対する金80万円の貸金債権」というように、少なくとも名目上、請求できる金額がわかっています。これを被差押債権の「券面額」と呼びます。

そこで、転付命令が確定した場合、Aの債権は被差押債権の「券面額」分だけ弁済されたと扱います。これを転付命令による「即時決済」と呼びます。

転付命令が確定すると、被差押債権の債権者はAとなり、債務者Bの財産ではなくなりますから、もはや他の債権者は手出しができません。その意味で、転付命令の確定により、Aは被差押債権という資産を独占することが可能となります。

ただし、Cに弁済する資力がなく、AがCから券面額分に見合う金銭を回収できなくても、AのBに対する債権の券面額部分は代物弁済によって消滅していますので、もはやAはBに対して請求することはできません。転付命令は第三債務者の無資力のリスクを負うのです。

転付命令とは、強制執行の執行機関である執行裁判所が、差押債権者の申立てによって発令する命令であり、その命令の内容は、支払いに「代えて」、差し押さえられた金銭債権をその券面額で差押債権者に転付する、すなわち「移転する」ものである(民事執行法159条1項)。

2.転付命令の要件

転付命令が認められる要件は、次のとおりです。

①有効な差押命令がなされていること
②譲渡可能な被差押債権であること
③券面額のある被差押債権であること
④債権者の競合がない被差押債権であること

(1) 有効な差押命令がなされていること

転付命令は、「差押えられた金銭債権」(民事執行法159条1項)を対象とする命令ですから、有効な差押命令が第三債務者に送達され、効力が生じていることが必要です(同法145条3項)。

もっとも差押命令の発効が後にならなければ良いだけですから、実務上は、差押命令と転付命令の2つの申立てを同時に行い、同時に発令されるケースが通常です。

(2) 譲渡可能な被差押債権であること

転付命令は、被差押債権を差押債権者に移転させるものですから、譲渡が許される性質の債権でなくてはなりません。もっとも、法律や債権の性質から譲渡が許されない債権は、そもそも差押できないので、転付命令の対象外です。

一方、譲渡禁止特約付きの債権は、転付命令の対象となります。当事者の合意で強制執行の対象外となる財産を作り出すことは許されないからです(最高裁昭和45年4月10日判決・最高裁判所民事判例集24巻4号240頁)。

(3) 券面額のある被差押債権であること

「券面額」とは、要するに「金○○円」と表現される、被差押債権で請求できる一定の金額です。

前述のとおり、転付命令が確定して効力を発すると、被差押債権は債権者に移転し、券面額の範囲で差押債権者の債権が消滅する「即時決済」となります。そのためには、決済される金額が明確でなくてはならないのです(同法160条)。

債権の発生や金額が確定していない将来の債権や条件付債権は、券面額を欠くものとして転付命令の対象外です。例えば、将来の給料債権・退職金債権、将来の賃料債権などがその例です。

(4) 債権者の競合がない被差押債権であること

転付命令が確定して効力を発生すると即時決済されますから、債権者は被差押債権から独占的に弁済を受ける結果となります。

しかし、例えば、他の債権者Dが同じBのCに対する債権を差押えた場合などのように、Aの債権差押えと競合する手続が行われた場合、常にAの転付命令が優先するという結果を認めると、あまりにも債権者の平等を害します。

そこで、Aの転付命令が第三債務者に送達もされていない段階であれば、競合する手続をとった他の債権者も保護することとされています。

具体的には、転付命令が発令されても、それが第三債務者に送達される時までに、被差押債権に対し、他の債権者が差押え・仮差押えの執行、配当要求をしたときは、転付命令は効力を生じないとされています(同法159条3項)。

3.転付命令の確定と効果

(1) 転付命令の確定時期は?

発令された転付命令に対しては、不服申立手段として、執行抗告が認められており(同法159条4項)、執行抗告は裁判の告知を受けた日から1週間以内に行わなければなりません(同法10条2項)。

裁判の告知を受けた日とは、転付命令が差押債務者または第三債務者に送達された日(同法159条2項)です。

したがって、執行抗告のなされないまま送達から1週間を過ぎれば転付命令は確定します。

債務者や第三債務者からの執行抗告がなされても、それが却下(不適法な場合)や棄却(理由がない場合)された場合は、転付命令が確定します。

(2) 転付命令の効果は?

転付命令は確定によって初めて効力を生じます(同法159条5項)。

そして確定により発生した転付命令の効力は、転付命令が第三債務者に送達された時点までさかのぼって、その送達時に即時決済が行われたと扱われます(同法160条)。

これにより、差押債権者は、被転付債権について、第三債務者に対し、自己の債権として、取立てること、他者に譲渡することなどが可能となります。

第三債務者が任意に支払わない場合は、自らが債権者として訴訟を提起することになります。

【被転付債権が存在しない場合】
転付命令は「転付命令が効力を生じた場合において(中略)転付命令に係る金銭債権が存する限り、その券面額で(中略)弁済されたものとみなす」(同法160条)と定められており、確定時点で被差押債権の全部又は一部が存在しないときは、その限りで転付命令の効力は生じません。
したがって、この場合、即時決済となりませんから、債権は消滅せず、債権者は債務者の他の財産に対して強制執行を行うことが可能となります。

4.転付命令のメリット・デメリット

(1) 転付命令のメリット|弁済の独占

冒頭で説明した被差押債権の換価方法のうち、取立権の行使は、取立訴訟の訴状が第三債務者に送達される前に、他の債権者も同じ債権を差押えた場合、第三債務者が供託する義務があります(同法156条2項)。

このため最初に差し押さえた債権者といえども、差押債権からの返済を独占することはできず、債権者平等の原則にしたがって、他の債権者と共に、債権額に応じた配当を受けることしかできなくなります。

他方、転付命令の場合、前述のとおり、命令が第三債務者に送達されるまでに、競合する債権者が現れてしまえば、転付命令は効力を発生できませんが(同法159条3項)、そうでない限り、命令の確定によって、第三債務者に送達された時点にさかのぼって即時決済されたと取り扱われます(同法160条)。

したがって、命令が第三債務者に送達された時点以降に、競合する債権者が登場しても、転付命令の確定によって、競合債権者が行った差押えは全て失効するので、転付命令を得た差押債権者が弁済の利益を独占することが可能となります。

(2) 転付命令のデメリット|第三債務者の無資力のリスク

前述のとおり、転付命令は代物弁済である以上、第三債務者が無資力で弁済を受けることができなくても、差押債権者の請求債権は即時決済によって消滅しているので、重ねて債務者に請求することはできないことになります。

このリスクがあるため、実務では、第三債務者からの弁済が得られる蓋然性の高い債権、例えば預貯金債権を差し押さえる際に、同時に転付命令を申し立てることが多いのです。

[参考記事] 債権転付命令のメリット、デメリット

5.まとめ

債権執行は、債権という目に見えない財産をめぐる攻防が行われるもので、実際に債権を回収して現金が手に乗るまでに、たくさんの観念的な手続をこなさなくてはなりません。

一般の方が自分で行うことはほぼ不可能ですから、債権回収の専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。

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