破産債権届出書とは|書き方やメリット
ある日、お金を貸している(債権を持っている)債務者が破産したとします。
すると、自分(債権者)のところに「破産債権届出書」または「破産届出書」あるいは「債権調査票」という書類が届くことがあります。普段見ない書類のため、戸惑う人が大半でしょう。
この書類は何のための書類なのでしょうか?また、仮に放置をするとどうなってしまうのでしょうか?
本記事では、破産債権届出書の概要や書き方、放置した場合に何が起こるかなどを紹介します。
既に破産債権届出書が届いた方や、債務者が破産するおそれがある債権者の方などは、ぜひご一読ください。
1.債務者が破産をすると債権はどうなる?
破産債権届出書について解説する前に、破産とはどういったものかを理解しておく必要があります。
まずは「破産」に関する知識を確認しておきましょう。
(1) 破産の概要
「破産」とは、債務の額が大きすぎて支払不能状態になった個人や法人が行う法的手続です。
ここでは、会社組織の破産を念頭に置いて説明します。
会社が裁判所に破産の申立てを行うと、裁判所が破産手続の実務を行う「破産管財人」という人を選任します。
破産管財人は、破産する会社の資産を全て売却して金銭に換えます。その金銭は債権者への弁済として、平等に配当されます。
その後、破産した会社は法人格を失って消滅します。法人格とともに債権債務も消滅し、消滅した債権は基本的に回収ができなくなってしまいます。
(2) 債権の回収額は「比率」で決まる
「債務者が破産しても弁済を受けられるのなら問題ないのでは?」と思う人もいるでしょう。
しかし、全ての債権者が満足な弁済を受けられるわけではありません。破産する会社の全資産を売り払っても、負債額に満たないことの方が多いです。
例えば、債権者A・B・Cから、それぞれ300万・200万・100万円借りている会社が破産したとします。そして、会社の全資産を売却した結果、60万円にしかなりませんでした。
この場合、60万円をA:B:Cの債権額の比率である3:2:1で分けます。Aは30万円、Bは20万円、Cは10万円しか受け取ることができません。
実際には他者よりも優先して回収できる債権(抵当権や先取特権等)があるためこれより複雑になりますが、とにかく満額の回収はできないと思ってください。
2.債権調査票・破産債権届出書とは?
債務者が破産するときは、自分が持つ債権の額を漏らさず申告しなければなりません。
漏れがあると上記の通り他の債権者との比率が変わってしまい、回収額が減る可能性があるからです。
自分の債権額を申告するために使われるのが、本記事のテーマである破産債権届出書です。債権調査票と破産債権届出書は名称が違うだけで、基本的な部分に違いはありません。
ここからは、本題の破産債権届出書について説明していきます。
(1) 破産債権届出書の役割
破産管財人は、破産する人の債権者がそれぞれどういった債権を持っているのかを調べなければなりません。そこで債権者全員に破産債権届出書を送付して、「どのような債権をいくら持っていますか?」と調査するのです。
この「債権の種類と金額の調査」が破産債権届出書の持つ役割です。
送付を受けた債権者は、書類の書式に従って債権の種類や金額を書き込み、破産管財人へ送り返します。破産管財人は破産債権届出書の内容を見て、誰にどのような債権があるかを確認します。
債権者の立場からすると、破産債権届出書は破産後の配当額を増やすために必要な書類です。
しかし、だからと言って金額を多めに記載すると取引履歴その他の各種書類と辻褄が合わなくなってしまいますので、虚偽なく正確に記載してください。
(2) 破産債権届出書を提出しないとどうなる?
破産債権届出書には提出期限があります。期限については同封の書類または破産債権届出書を確認してください。
しかし、破産債権届出書を期限内に提出しなくても、何らかの罰を受けることはありません。提出するかどうかは債権者の裁量に任されています。
「どうせ雀の涙程度しか債権を回収できない」「回収額に比べて書類作成の手間の方が大きい」などと考えて、提出しない債権者もいるようです。
ただし、破産債権届出書を出さない債権者は、破産手続に参加できません。配当を受けることもできず、債権の回収は諦めることになります。
少しでも債権を回収したいのであれば、期限内に破産債権届出書を提出しましょう。
(3) 提出期間を経過しても提出できる?
破産法112条には、債権者の責任がない事情で破産債権届出書を提出できなかった場合、破産管財人が債権を調査している期間内であれば、破産債権届出書を提出できるという規定があります。
また、債権者に責任がない事情が消滅してから1ヶ月以内であれば、やはり破産債権届出書を提出できることになっています。
とは言え、黙って期限を超えるのはよくありません。破産債権届出書を送付した破産管財人に事情を説明して、期間が経過した後に提出する旨を予め告げることをおすすめします。
(4) 債務者が破産したのに破産債権届出書が届かない
破産する債務者が「債権者一覧」という書類を作成するときに、債権者の情報を書き漏らすことがあります。そうなると債権者の元に破産債権届出書が届きません。
しかし、この場合でも届出をしない債権者は配当を受けられなくなります。「相手のミスで書類が届いてないのに理不尽だ」と思うでしょうが、こればかりは仕方ありません。
債務者が破産したことを知っているのに破産債権届出書が届かない場合は、破産管財人の連絡先を調べて連絡し、破産債権届出書を送ってもらってください。
3.破産債権届出書の書き方
破産債権届出書は裁判所によって書式が異なります。全国一律の書き方があるわけではありません。
以下に東京地裁と名古屋地裁で配布している書類のリンクを貼付します。かなりの違いがあることがわかるはずです。
実務上は破産管財人が記入例を同封してくれることも多いため、それに従って記入していきましょう。不明点があれば弁護士や破産管財人に相談しながら書いても問題ありません。
以下では、一般的な記載事項の書き方について説明します。
(1) 債権が発生した年月日
売買なら売買契約が成立した日、お金を貸したならその日や契約書の日付を書きます。
労働債権(給料など)の場合は、いつからいつまで働いたことによって発生した債権なのかを記載します。
(2) 債権が発生した原因
売買なら「売買」や「売掛金」、お金を貸したら「消費貸借」「貸付金」などと書きます。
労働に関する債権なら「給料」「退職金」「解雇予告手当」などと書いてください。
(3) 債権額
債権の元金の額とともに、利息や遅延損害金などについても記載します。
(4) 手形や小切手
債権として手形や小切手がある場合は、その額面を記入します。
(5) 債権に関連する権利
例えば、抵当権や先取特権のある債権は、破産手続に関係なく他の債権者よりも優先して回収することができます。
回収できる金額を多くするためにも、忘れずに記載しておきましょう。
(6) 債務者の地位
破産する相手が債務者本人なのか、それとも保証人なのかなどを記載します。
お金を貸した相手本人が破産する場合は「主債務者」と書くか、該当するチェック欄にレ印を入れます。保証人がいるのであれば、保証人の氏名も併記してください。
破産するのが相手の保証人の場合は「保証人」と書くか、チェック欄にレ印を入れて、お金を貸した本人(主債務者)の氏名も併せて書きます。
(7) 債務者の破産又は免責に関する意見
納得できないことがあれば事情を記載します。ただし単に不満を述べるのではなく、ちゃんとした理由を書く必要があります。
例えば「隠している財産があるから返済可能だと思います」や「一度も返済せずに破産するのは計画性があり悪質。免責不許可にすべき」などです。
書いた意見を裁判所がどう扱ってくれるのかはわかりません。破産手続に影響がないことも多々ありますが、思うところがあれば書き記しておきましょう。
意見がない場合は空欄にするか、「なし」と書けば問題ありません。
(8) 破産債権届出書に添付する証拠書類
破産債権届出書の提出時には、債権の存在を証明する証拠書類の提出を求められます。証拠がないと破産管財人が債権の存在を認めてくれず、配当額が減ってしまうおそれがあります。
以下の書類のコピーを添付しましょう。
- 契約書
- 請求書
- 納品書
- 借用書
- 給与明細書
- 手形
- 確定判決
- 和解調書
- 公正証書 など
4.債権回収のために破産債権届出書は正しく記載を
債務者が破産手続に入っても、債権の全額を諦める必要はありません。破産債権届出書を提出すれば、多少なりとも債権を回収できる可能性があります。
細かい債権も漏らさず記入することで、回収額を上げることができます。自分の債権を徹底的に調べて、利息や遅延損害金も計算して記入しましょう。