家賃滞納トラブルを裁判で解決する方法
債権を回収する手段の1つが訴訟、つまり裁判です。家賃滞納トラブルも裁判で解決できます。
訴訟に踏み切るにはそれなりの覚悟や準備が必要ですが、訴訟を提起するどころか裁判所に行った経験もない人が大半でしょう。
ここでは、家賃滞納トラブルを抱えている方のために、裁判のメリットや裁判をするべきケース、実際の手続きの流れなどを紹介していきます。
1.裁判のメリット
裁判は手続きが複雑です。相手が争う姿勢を見せれば、終結まで半年以上かかることも珍しくありません。
負担が大きいにも関わらず裁判をする以上、それに見合ったメリットがあるはずです。
一体どのようなメリットがあるのでしょうか?
(1) 勝訴すれば差し押さえが可能
裁判で勝訴すると確定判決を得ることができます。確定判決の書類があれば、強制執行の申立てが可能です。
強制執行をして入居者の財産を差し押さえれば、その財産から家賃を回収できます。
家賃の回収と差し押さえに関する詳しいことは、リンク先のコラムをお読みください。
[参考記事] 家賃滞納者に対しての差押え(2) 入居者が和解に応じることがある
裁判で自分に不利な判決が出されそうだと危惧した入居者が、裁判の前や裁判の途中に和解を持ちかけてくることがあります。裁判官が和解を提案することも多いです。
仮に裁判で勝訴しても、相手に財産がなければ支払いを受けることができません。
しかし和解に応じれば、ある程度現実的な条件を設定して家賃を回収できます。
例えば一括払いは無理でも、分割払いで返済してもらうなどの方法です。
和解した場合、裁判所で和解調書を作成することになります。和解調書があれば強制執行の申立てが可能です。
早期に和解に至れば、判決より早く手続きを終結させ、なおかつ勝訴判決を得たときと同等の効果を得ることができます。
2.家賃滞納トラブルの解決に裁判が適しているケース
裁判に踏み切るか、それとも他の方法で家賃を回収すべきなのか、悩んでいる人も多いでしょう。
家賃を回収するために裁判を行うべきケースとは、どのような場合なのでしょうか?
(1) 督促しても無視されるとき
電話・メール・郵便物などで督促をしても無視されて支払いがないケースです。
再三の督促を無視している以上、入居者が自らの意思で家賃を支払ってくれる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。
任意で支払ってくれない以上、強制的に支払わせるしかありません。
裁判で勝訴すれば、裁判所が「被告(入居者)は原告(大家さん)に金◯◯万円を支払え」という判決を出します。
仮に判決が無視されても、確定判決を使って強制執行の手続きに移れます。強制執行は相手の意思に関係なく行えるため、強制的に家賃を回収することができます。
[参考記事] 強制執行の手続きを行う方法|申立書の内容・流れなど(2) 交渉しても任意で払ってもらえないとき
無視はされていなくても「来月払います」「お金が入金されたら払います」などの言葉を繰り返されて、のらりくらりと支払いを先延ばしにされるケースがあります。
そういった場合は裁判をすることで「もう先延ばしはしない」「交渉もしない」などの意思を突きつけ、明確に決着をつけられます。
(3) 家賃を回収して強制退去させたいとき
家賃を回収するだけなら「支払督促」「少額訴訟」などの方法があります。しかし、これらの方法では、金銭の支払いしか請求できません。
これに対して通常の裁判は、金銭の支払い以外のことも請求できます。
家賃滞納トラブルの場合、家賃の回収以外に「入居者との賃貸借契約を解除したい」「賃貸物件から強制退去させたい」などと望む大家さんが多いです。
その場合は訴訟を提起して、家賃の回収とともに「建物明渡し請求」を行う必要があります。明渡し請求が認められれば、賃借人を賃貸物件から強制的に退去させることが可能です。
支払督促や少額訴訟では実現できない請求がある場合は、訴訟を提起しましょう。
3.家賃滞納に関する裁判の流れ
ここからは、裁判の流れを紹介していきます。
なお、前提として、裁判所に訴訟を提起する前に滞納している入居者に督促・催告をする必要があります。
(1) 訴訟の提起
催告書などに記した期限までに支払いがなく、入居者からの返事もない場合は、裁判所に訴訟を提起します。
請求額が140万円未満の場合は簡易裁判所、140万円以上の場合は地方裁判所で申立てをします。
家賃を回収する場合、債権者である大家の住所を管轄する裁判所か、賃貸物件の所在地を管轄する裁判所へ申立てをします。ただし、賃貸借契約書に訴訟を提起する裁判所が明記されている場合は、その裁判所に申立てをしてください。
申立てに必要な書類は以下の通りですが、ケースによって異なります。弁護士に依頼して用意しましょう。弁護士なら裁判所への提出も代行してくれます。
- 訴状
- 当事者目録
- 証拠書類(賃貸借契約書や内容証明で送った催告書など)
- 資格証明書
- 委任状(弁護士に依頼した場合)
(3) 期日の決定と通知
申立てが裁判所に受理されたら、裁判所が審理の期日を決定して、原告(大家)と被告(入居者)の両方に通知します。
被告には訴状の副本や呼び出し状、答弁催告書が送られます。被告は審理に先立って答弁書を裁判所に提出する必要があります。
答弁書は裁判所を通じて原告に送られるので、原告はそれを見て反論を考えることができます。
(4) 第1回期日
期日になったら裁判所へ出頭します。弁護士に依頼した場合は弁護士が代わりに出頭してくれるため、原告本人が裁判所へ行く必要はありません。
また、被告は答弁書を提出すれば出頭を免除されます。そのため法廷には裁判官と原告代理人の弁護士しかいないことが多いです。
被告が呼び出しを無視して出頭せず、答弁書も提出しない場合、基本的に原告の主張を認容する判決(勝訴判決)が出ます。判決は審理の日から1週間程度で言い渡されます。
家賃滞納に関する裁判は被告が争わないケースも多いため、すぐに終わる可能性があります。
(5) 書面による主張のやりとり
被告が争う場合、第1回期日では終わりません。
2回、3回・・・と期日が重ねられていきますが、お互いの主張は、基本的に書面で裁判所と相手方に提出することになります。主張を裏付ける証拠の提出も必要となります。
(6) 尋問手続(人証調べ)
書面のやりとりで争点が明確になったら、原告や被告、その他の関係者が裁判所に呼び出されます。
裁判官は尋問を行い、追加の主張がなければ審理を終結します。
(7) 判決
裁判官が判決を言い渡します。判決に不服があれば控訴できます。
(8) 強制執行
原告が勝訴したにも関わらず、被告が判決の内容を無視して従わないことがあります。
その場合は原告が強制執行の申立てをして、被告の財産を差し押さえて家賃を回収します。
4.裁判費用について
裁判で問題になるのは費用です。家賃を回収できても費用の方が高くなっては意味がありません。
費用の内訳は主に以下の2つです。
(1) 裁判所に納付する費用
訴訟を申立てする際に、裁判所へ申立手数料を納める必要があります。
申立手数料は訴訟での請求金額によって以下のように定められています。
請求額 | 申立手数料 |
---|---|
100万円以下 | 10万円ごとに1000円ずつ加算 |
100万円超500万円以下 | 20万円ごとに1000円ずつ加算 |
500万円超1000万円以下 | 50万円ごとに2000円ずつ加算 |
1000万円超10億円以下 | 100万円ごとに3000円ずつ加算 |
10億円超50億円以下 | 500万円ごとに1万円ずつ加算 |
50億円超 | 1000万円ごとに1万円ずつ加算 |
これ以外に、裁判所が原告と被告に対して連絡するための郵便切手の代金が必要です。
裁判所や訴えの内容などによって異なりますが、概ね5,000円から1万円の間だと思ってください。
(2) 弁護士報酬
弁護士や事案の内容によって異なります。
あくまで目安ですが、着手金で35万円以上必要でしょう。また、成功報酬を支払う必要もあります。
その他、実費や日当なども発生します。
事前に見積り書をもらい、回収できる家賃の金額と比較してから弁護士に依頼することをおすすめします。
5.家賃滞納トラブルの解決は弁護士へ
家賃を回収するために訴訟を起こしたい、同時に建物明渡し請求をしたいなどの場合は、ぜひ弁護士にご依頼ください。
弁護士は法律のプロです。必要な書類を集めて訴訟を提起し、各種手続きを滞りなく進めて、勝訴判決を得るために全力を尽くします。
弁護士泉総合法律事務所には、訴訟を含めた債権回収の知識が豊富な弁護士が揃っています。
家賃の回収は、ぜひ当事務所にお任せください。