強制執行を停止されたら|停止要件・停止後の債権回収を解説
債権者が債務名義に基づいて強制執行の手続きをとったとしても、債務者側の申立てにより、裁判所が強制執行を停止するケースがあります。
もし強制執行が停止されてしまった場合、債権者はどのように対処すればよいのでしょうか?
今回は、強制執行が停止される主なケースと停止要件、申立てから強制執行停止までの期間、停止後の債権回収方法などを解説します。
1.強制執行停止が行われる主なケースと要件
強制執行の停止(中止)は、民事訴訟法・民事執行法や、各種倒産法の規定に基づいて行われます。
強制執行が停止される主なケースと要件は、以下のとおりです。
(1) 仮執行宣言付判決に対して控訴がされた場合
第一審の判決には、「仮執行宣言」が付されることがあります。
仮執行宣言付き判決は、強制執行の申立てに利用できる「債務名義」として認められているため(民事執行法22条2号)、判決の確定を待たずに強制執行の手続きをとることができるのです。
しかし、仮執行宣言付き判決はあくまでも暫定的な結論であり、控訴が行われると再び裁判所の審理に付されます。
その際、以下のいずれかの要件を満たす場合には、債務者の利益を考慮して、強制執行が停止されることになっています(民事訴訟法403条1項3号)。
- 原判決の取消し・変更の原因となるべき事情がないとはいえないことにつき疎明があったとき
- 執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき
(2) 執行文の付与に対する異議の訴えが提起された場合
確定判決などの債務名義については、強制執行を開始する前提として、裁判所書記官(執行証書の場合は公証人)によって「執行文」が付与されます(民事執行法26条1項)。
執行文の付与に対しては、以下のいずれかに該当する場合には、「執行文の付与に対する異議の訴え」を提起することが可能です(同法34条1項)。
- 債権者の証明すべき事実の到来したことについて異議がある場合
- 債務名義に表示された債務者以外の者が、自らは債務者の承継人ではないと主張する場合
- 債務名義に表示された債権者以外の者による申立ての場合において、債務者が、申立人は債権者の承継人ではないと主張する場合
上記のいずれかについて法律上の理由があるとみえ、かつ事実上の点について疎明があったときは、裁判所は強制執行の停止や取消しを命ずることができます(同法36条1項)。
(3) 請求異議の訴えが提起された場合
債務名義に係る請求権の存在そのもの、またはその内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めて「請求異議の訴え」を提起することができます(民事執行法35条1項)。
請求異議の訴えが認められる典型例は、確定判決によって認められた請求権が、口頭弁論終結時以降に、弁済によって消滅した場合などです。
請求異議の訴えについても、執行文の付与に対する異議の訴えと同様に、法律上の理由があるとみえ、かつ事実上の点について疎明があったときは、裁判所は強制執行の停止や取消しを命ずることができます(同法36条1項)。
(4) 第三者異議の訴えが提起された場合
強制執行の目的物について、所有権その他目的物の譲渡・引渡しを妨げる権利を有する(債務者以外の)第三者は、強制執行の不許を求めるために「第三者異議の訴え」を提起することができます(民事執行法38条1項)。
わかりやすく言うと、「それは債務者の物ではなく、全く関係ない自分の物だから、強制執行はやめてください」ということです。
第三者異議の訴えについても、執行文付与に対する異議の訴え・請求異議の訴えと同様に、法律上の理由があるとみえ、かつ事実上の点について疎明があったときは、裁判所は強制執行の停止や取消しを命ずることができます(同法38条4項、36条1項)。
(5) 破産手続き・民事再生手続きにおける強制執行の中止
破産手続きや民事再生手続きの申立てがあった場合において、強制執行が債務者の生活に与える影響が大きいケースなどでは、裁判所によって強制執行の中止が命じられることがあります(破産法24条1項1号、民事再生法26条1項2号)。
また破産手続きに限り、破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に対する強制執行は失効します(破産法42条1項)。
2.強制執行が停止される手続きと所要期間
強制執行が停止されるまでの大まかな流れは以下のとおりです(破産手続き・民事再生手続きにおける強制執行の中止等については割愛します)。
(1) 裁判所に対する申立書等の提出
強制執行の停止を求める債務者は、裁判所に対して執行停止の申立てを行います。
(2) 申立書等の補正
申立書や疎明資料などの添付書類に不備がある場合には、裁判所によって補正が命じられます。
債務者は、裁判所からの指示に従い、申立書等を補正します。
(3) 疎明資料の審査
債務者によって提出された疎明資料を裁判所が審査し、強制執行停止の要件を満たしているかについて判断を行います。
(4) 立担保命令・担保金の供託
強制執行停止の要件を満たしていると判断した場合、通常、裁判所は債務者に対して担保を立てるよう命じます。
これは、後に強制執行の再開が認められた場合に備えて、債権者が弁済を受けるための資金を確保するためです。
担保の金額は債権者・債務者の状況や請求権の内容によって異なり、担保を全く立てないケースもあります。
債務者は、裁判所の立担保命令に従い、担保金を供託します。
(5) 強制執行停止の決定
債務者によって担保金が供託されたら、裁判所は強制執行の停止を決定し、債権者に対してその旨を通知します。
補正を含めて申立書が受理されれば、早ければ即日、遅くとも数日以内には立担保命令・強制執行停止の決定が行われます。
3.強制執行停止に対する不服申立ては可能?
強制執行停止の決定に対しては、独立した不服申立てが認められていません(民事執行法36条5項、38条4項、民事訴訟法403条2項)。
裁判所によって強制執行が停止されるケースでは、すでに請求権の存否等を争うために訴訟が提起されています。
したがって、訴訟手続きの中で判断すれば足りるため、強制執行の停止自体に対する不服申立ては認められていないのです。
ただし、破産手続き・民事再生手続きにおける強制執行の中止命令については、別途訴訟が提起されているわけではないので、即時抗告が認められています(破産法24条4項、民事再生法26条4項)。
4.強制執行が停止された場合の債権回収
裁判所によって強制執行が停止(中止)された場合、その後の債権回収手段は、どのような理由による停止かによって異なります。
(1) 控訴による執行停止の場合
仮執行宣言付き判決に対する控訴を理由に強制執行が停止された場合、請求権の存否は控訴審で争われることになります。
そのため、強制執行を再開するためには、控訴審で再度の仮執行宣言付き判決を得るか、勝訴判決の確定を待たなければなりません。
(2) 民事執行法上の訴えによる執行停止の場合
以下の3つの訴えに伴い強制執行が停止された場合には、各訴えの終局判決において、強制執行の停止が取り消される場合があります(民事執行法37条1項、38条4項)。
- 執行文の付与に対する異議の訴え
- 請求異議の訴え
- 第三者異議の訴え
強制執行の停止が取り消された場合、止まっていた強制執行手続きが再開されます。
また、執行文の付与の訴えに関して、「債権者の証明すべき事実の到来」していない可能性があることを理由に強制執行を停止された場合、当該事実が到来してから、再度強制執行を申し立てることも可能です。
さらに、執行文付与に対する異議の訴え・第三者異議の訴えについては、債務者所有の別の財産に対して強制執行を行うことで、債権を回収できる可能性があります。
(3) 破産・個人再生手続きにおける執行中止等の場合
破産手続きにおける破産債権者、および再生手続きにおける再生債権者は、各手続きにおいて権利縮減の対象となります(本来は債権を全額回収できるはずだったのに、倒産手続きによって債権の一部または全部が免除されてしまう)。
そのため、各手続き内で強制執行が中止された場合、即時抗告が認められない限り、当該債権に関する強制執行はできなくなります。
代わりに、破産手続きの場合は破産管財人からの配当、民事再生手続きの場合は債務者からの弁済を受けられますが、額面はもともとの債権よりもかなり少額になってしまうケースが多い(破産手続きの場合は配当が受けられない場合もあります)ので注意が必要です。
5.まとめ
強制執行手続きが停止されると、債権者としては二度手間以上の負担を強いられてしまいます。
強制執行手続きをとる際には、強制執行停止の利用要件に該当するかどうかを、事前に確認することをおすすめします。
弁護士にご相談いただければ、強制執行その他の手続きにより、円滑に債権回収を行うお手伝いをいたします。
債権回収にお悩みの方は、ぜひお早めに弁護士までご相談ください