破産管財人による破産財団の放棄(法人破産)
破産手続きの中では、債務者財産(破産財団)の換価・処分等を担当する破産管財人によって、破産財団の一部が放棄される場合があります。
破産財団の放棄が行われた場合、個人による自己破産であれば、債務者自身が財産を活用できるメリットがあります。
しかし法人破産の場合、放棄された破産財団を引き継ぐ法人は消滅してしまうため、管理者不在の問題が生じます。
このような懸念がある中で、法人破産の場合でも、破産財団の放棄が行われることはあるのでしょうか。
今回は、破産財団の放棄が行われる場合の具体例や手続き、さらに法人破産における破産財団の放棄の可否や問題点などについて解説します。
1.破産財団の放棄について
破産者(債務者)が、破産手続開始の時点で有する一切の財産は、破産財団として換価・処分の対象となります(破産法34条1項)。
破産財団の換価・処分は、弁護士などが就任する破産管財人が担当します。
この破産管財人の判断により、破産財団の一部が放棄されるケースがあります。
まずは、破産財団の放棄とは何なのか、どのような場合に放棄がなされるのかといった基本的なポイントを確認しておきましょう。
(1) 破産財団の放棄とは?
破産手続きでは、破産管財人が破産財団の換価・処分を行います。
換価・処分によって得られた代金は、債権者への配当を行う際の原資となります。
しかし実際には、破産財団の中には、換価・処分が難しい財産も存在します。
換価・処分が難しい破産財団を無理やり売却しようとしても、手間やコストばかりが増え、さらに破産手続きが長期化することにも繋がりかねません。
そこで破産法では、破産管財人が破産財団を放棄できる場合があることを定めています。
売却等によって、債権者への配当原資を確保することに繋がる見込みがない財産については、破産財団の放棄を行うことで、破産手続きから外すことができるのです。
破産管財人によって放棄された破産財団は「自由財産」となり、破産者本人に帰属します。
破産者が個人であれば、放棄されて破産財団ではなくなった財産を、破産者本人の自由な意思により活用することができるようになります。
(2) 破産財団の放棄が行われる場合の具体例
破産財団の放棄が行われるのは、売却等による換価・処分ができない場合、あるいは仮にできたとしても、管理や売却等にかかるコストがリターンを上回る場合などです。
具体的には、以下のようなケースでは、破産財団の放棄が行われることが多いと考えられます。
- 破産財団の市場価値が極めて低い、またはゼロである場合(例:壊れた車など)
- 破産財団にある程度の市場価値は認められるものの、買い手がなかなか見つからず、売却までに相当の時間を要する場合(例:山林など)
- 破産財団の管理にあまりにも大きなコストを要する場合(例:賃料を差し押さえられている不動産の任意売却が奏功せず、賃料収入を得られないまま毎月多額の管理コストが発生している場合など)
(3) 破産財団の放棄には裁判所の許可が必要
破産管財人が破産財団の放棄を行う際には、裁判所の許可を得なければなりません(破産法78条2項12号)。
破産財団の放棄は、債権者への配当の引き当てとなる財産を流出させる行為です。
そのため裁判所は、債権者を害することにならないかを総合的に検討して、破産財団の放棄を認めるかどうか判断します。
また、放棄された破産財団を管理する人がいるかどうかについても、破産財団の放棄を認めるかどうかの判断材料となります。
この点は、特に法人破産の場合において、顕著に問題となるポイントです。
2.法人破産における破産財団の放棄
個人による自己破産の場合、放棄された破産財団は、債務者本人によって活用される余地があります。
そのため、破産財団の放棄は、債務者の経済的更生を助ける観点から、正当化しやすい面があると言えるでしょう。
これに対して、法人破産の場合は、破産財団の放棄によって債務者である法人がメリットを受けることはありません。
破産手続きによって、最終的に法人格は消滅してしまうため、債務者である法人が放棄された破産財団を活用することはできないからです。
それどころか、放棄された破産財団について、管理者が不在となってしまうリスクがある点も無視することができません。
会社が破産すると、破産手続開始決定により会社は解散し、取締役等の役員も委任関係の終了によりその地位を失ってしまいます。そのため、放棄された破産財団の管理・処分を行う者がいなくなってしまうおそれがあるのです。
このような懸念から、法人破産のケースでは、実務上も破産財団の放棄が行われるのは例外的な場合に限られています。
したがって法人破産の場合、破産管財人は、破産財団に含まれる価値のない財産、換価・処分が難しい財産等についても、できる限り処分するように活動しなければなりません。
たとえば、会社代表者の親族や関係者などに廉価で販売したり、費用を支払って廃棄処分にしたりする方法が考えられるでしょう。
3.法人破産で放棄された破産財団の処理方法
しかし破産法上は、法人破産のケースでも、破産財団の放棄が禁止されているわけではありません。
無償での引き取り手も見つからず、破産財団から廃棄する費用を捻出することもできないような場合には、法人破産のケースであっても、破産財団の放棄が行われる可能性があります。
法人破産のケースで、破産財団の放棄が行われる場合には、債務者である会社の清算手続きに従って、当該財産が処分されることになります。
具体的には、まず破産管財人などを、会社の清算人に選任します。
そして、清算人が暫定的に放棄された財産を管理し、最終的には残余財産の分配によって株主に財産が移転します。
【破産財団から放棄された財産を、オーナー経営者が活用することはできる?】
破産管財人が破産財団を放棄するのであれば、オーナー経営者がその財産を活用したいと考えるケースもあるかもしれません。その場合には、破産管財人にその旨を申し出るのがスムーズです。破産管財人としても、破産財団の処分先に困っている状況ですから、オーナー経営者から引き取りの申し出が行われるのは歓迎すべきことです。
ただし、無償で財産を引き取れるとは限らず、破産管財人との交渉次第では、一定の代金を支払うよう求められる可能性があるので注意しましょう。
4.法人破産は弁護士に相談を
法人破産をすると法人格が消滅し、これまで継続してきた事業を途切れさせることになってしまいます。
法人の支払不能・債務超過を解消するための手続きには、他にも民事再生や私的整理など、事業を継続させながら実施することができるものも存在します。
法人破産に踏み切る前に、これらの手続きとの間でメリット・デメリットを比較することも大切です。
また法人破産は、裁判所で行われる複雑な手続きであるため、申立ての際には慎重な対応が必要となります。
準備すべき書類も膨大になり、手続き開始後も破産管財人と連携しての対応が生じるため、債務者の負担はかなり大きくなることが予想されます。
弁護士にご相談いただければ、法人破産と他の手続きのメリット・デメリットを比較したうえで、企業のご状況に合わせて、最適な債務整理手続きをご提案いたします。
また、法人破産の手続き上必要となる対応についても、弁護士が代理いたしますので、経営者・ご担当者のご負担は大きく軽減されます。
法人破産は、弁護士にご相談いただくのが安心です。
会社の債務の支払い負担が重く、経営に行き詰まりを感じている方は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。